「出会い」が生まれるのは、きっとこんな軒先。

軒先の小さなスペースって、屋内とはちょっと違う空気が流れている気がする。

偶然、居合わせた人と仲良くなったり。部外秘のひそひそ話だったり。「ちょっと外」な解放感やそこから生まれるグルーヴ感もさらなり。

店先の空間が素敵なお店を3つ紹介しよう。

01.
「みんなの、人間交差点のような場所でありたい」
PARADISE TOKYO(東京・目黒区)

アパレルブランド「WACKO MARIA(ワコマリア)」の旗艦店である「PARADISE TOKYO」。男の色気やルーディーさが魅力の同ブランドらしく、ショップも無機質なカラーリングとラギッドな佇まいがなんともクールだ。

© 2020 eeeeeeeno

ショップの前を通るたびに、店先で談笑したりくつろいでいる姿が目に入り、なんとなく気になっていた。

「お客さまにもスタッフにとってもゆっくりチルできるようなスペースがあるのはいいですよね」

無骨な紳士然としたブランドイメージから勝手に想像していたのとは、正反対のやわらかい物腰で出迎えてくれたPRの村田裕平さん。いからせた肩が緩む。外観に溶け込むように置かれた灰皿について聞いてみた。

「これ、もともとは真っ赤の“火の用心”ってかいてある灰皿なんです。お店の外壁と似寄りの塗料を使って塗ってあります。年季が入っていい色合いですよね」

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ここは、1日中多くの人が行き交う山手通り。ショップを訪れる人だけでなく、近所の方や歩行者への配慮も欠かさない。

「ここでショップミーティングや打ち合わせをするんですが、終わったあとにみんなで雑談したり一服したりっていうのがルーティンになってます。でも、通る人の迷惑にはならないように。」

PARADISE TOKYOにはカフェスペースもあり、お酒を愉しむこともできる。

「お仕事中の方がコーヒーを頼まれて、そこでPCを開きながら作業場所として使ってくれたりもするんですよ。メンズのブランドだけど、女性のお客さまが来てくれることも増えましたね。たくさんの人にワコマリアを知ってもらうこともカフェを始めた理由のひとつなので、ここへのんびりしに来てくださるのは嬉しいです」

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服の他にも写真集や大量のレコードが並ぶ店内。訪れた人の五感や感性を刺激するような空間をつくり上げるために、構想期間に数年を費やしたのだそう。

「サウンドシステムにもかなりこだわっています。ヴィンテージのスピーカーやアンプを置いているのですが、音の出方、拾い方っていうんですかね。アナログレコード特有のレコーディングの際に入った小さな音も拾ってくれるので、生音の良さを感じられるんです。」

単なるファッションの枠を越え、多くの作品やアーティストとのコラボレートアイテムは、発売のたびに大きな反響を呼んでいる。柔軟に新しいものを取り入れながらも、脈々と流れる音楽や映画への情熱、その揺るがないワコマリアらしさが多くの人を魅了する理由のひとつなのかもしれない。

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人やカルチャーが常にクロスオーバーするPARADISE TOKYOでは、知り合った人同士が遊びや仕事でつながっていくことも多いのだとか。

「ありがたいことに、ここでの出会いがきっかけで面白い交流がうまれることも多々あるんです。つねに人間交差点のような場所でありたいですね」

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煙をくゆらせながら、履いているスニーカーのソールのことや最近、新しくできたミュージックバーのことを話していた。スマホのボイスメモがオンになっている。そうだ、今日は取材しに来たんだったな。

「PARADISE TOKYO」PR 村田さん

一服する人だけじゃなく、お客さまもスタッフも、ゆっくりチルできるようなスペース。ここでの雑談がきっかけで新しい遊びや仕事が生まれることもありますね。

PARADISE TOKYO

住所:東京都目黒区東山2-3-2
営業時間:月〜土12:00〜21:00、日・祝12:00〜20:00
休:不定休
Instagram:@paradisetokyo_wackomaria

02.
つい常連になってしまうお店には、理由がある。
鳥恵 上野黒門店(東京・台東区)

東京のグルメな呑んべえに「いい店」をたずねると必ずと言っていいほど名前が上がるのが焼き鳥の名店「鳥恵」だ。

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今回、取材を申し込んだのは上野黒門店。湯島の本店、ミシュランを獲得した上野広小路店に続き3店舗目となる。炭同士が鳴らす高く心地よい音が響く店内で、代表の小澤俊正さんに話をうかがった。

お客さまに臨場感溢れる空間で、焼き鳥を楽しんでいただきたく、カウンターをメインに設計しました。焼いている職人の手元が見えるのはなかなかチャレンジングなんですけどね。こうしてお客さまと会話もできるので気に入っています

毎朝、小澤さん自ら調達し各店舗に配達までおこなう新鮮な鶏肉や、豊富な種類の日本酒をここ上野黒門店では堪能できる。厨房を囲うように木組みされた一枚板の美しいカウンターや装飾が、料理をより一層引き立てているのだろう。

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「じつは、厨房の床を下げているんですよ。排水溝なんかは下に埋め込んでるところが多いんですけど、そうすると目線が高くなって、威圧感を与えてしまうことがある。カウンターに座ったお客さまと目線に合うような高さにしたんです

言われなければ気づかないような細かいところにまで手を加えることで、この空間が生まれているのだろう。至れり尽くせりの居心地の良さから、ふらっとひとりで来店する人も多いようだ。

「昨日もおひとりさまが3組いらしたかな。暖簾を手の甲でめくりながら『空いてる?』って(笑)」

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「店舗の設計や装飾は、大工になった大学時代の友人を通じて、知り合いの工務店にお願いしています。上野黒門店は、ガラス張りの開放感といった、もともとこの建物が持っている魅力を活かしつつ、モダンな和をイメージして設計してもらったんですよ」

料理以外のことにフォーカスするのは大変恐縮だが、上野黒門店は外観も本当に素敵だ。入りやすい雰囲気ながらも、呉服屋さんかのような趣ある店構えに、足を止めてなかをのぞく通行人も多い。

「第一印象ですからね。店構えは重要だと思います。軒先のスペースは、喫煙所としてだけではなく、雨の日は傘をたたんだりコートを脱いだり。屋根があったほうが落ち着きますよね。お客さまをお見送りするときに、ここで話すこともありますし、働いている我々にとってもお気に入りの空間です」

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小澤さんのスタンスや言葉はいずれも、商売というよりお客さんに対する真心を感じさせる。どうやら置いてある灰皿にも、秘密があるようだ。

「ある常連さんがいて、ここにお店を開く前からの知り合いなんですけど。その方にとって居心地の良いお店をつくろうと思ったんです。彼はヘビースモーカーなので、せっかくなら喜んでもらえるような雰囲気のある灰皿を置きたいなあと。この灰皿はその常連さんのための特注なんですよ」

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たったひとりのために特注の灰皿なんて初めて聞いた。小澤さんからいただいたペットボトルのお茶がまだほんのり温かい。鳥恵はいつだって素晴らしい料理、溢れんばかりの心配りと、夏休みに祖父母の家へ遊びに行ったときくらいのおもてなしが出迎えてくれる。勝手ながらそう思って、銀座線に乗り込んだ。

鳥恵 代表 小澤さん

軒先の灰皿を特注で作ったのは、たばこが好きな常連さんに喜んでもらいたかったから。働いてる我々にとっても、お気に入りの空間です。

鳥恵 上野黒門店

住所:東京都台東区上野3-18-1 大熊ビル1F
営業時間:月〜金 17:30〜23:00(L.O.22:30)、土・祝17:00〜23:00 (L.O.22:30)
Tel:03-6803-0623
休:日曜日
URL:torie-yakitori.com

03.
「とりあえず、あそこで待っとって」
TAG STÅ(福岡・春吉)

福岡の中心地・博多駅から歩いて20分ほど、小さな川を渡った先にある「TAG STÅ(タグスタ)」は、ギャラリーを併設したエスプレッソスタンド。

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さっそくなかへ入ると、オーナーの橋口靖弘さんがフラットホワイト(エスプレッソに泡立てたスチームミルクを注いだもの)をつくっているところだった。家の近所にこんなお店があったら、毎朝寄ってしまうだろう。

「それ、みんな言うけど、本当に家の近くにあったら来ないと思うよ(笑)でも、その安心感でいいんじゃないかな。たとえば、友だちが遊びに来るとかそういうときに『とりあえず、あそこで待っとって』って。そんな使い方もありだと思う」

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ギャラリーがあるカフェと聞くと、スノッブな印象をもつかもしれないが、一度なかに入ればその自然体な雰囲気を感じるだろう。

「最初はコーヒーだけでやろうと思ってたんだけど、小さい物件が見つからなくてね。コーヒーだけだと採算が合わないから、前から興味があったギャラリーもやってみた」

アイアン製のベンチとイスが数脚ある店内は、シンプルな装飾ながら、どこか温かい雰囲気を漂わせている。

「屋台や立ち飲みだったら基本、筒抜けでも仕方ない話をするでしょ。まったく知らない者同士なのに会話が成立したり、意気投合して楽しいことがうまれたり。この店でもそういうことがよくあるんだ」

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春吉の街に溶け込むように佇むTAG STÅには、その土地に根ざしたお店や人に漂う嘘偽りない風格を感じる。

「エスプレッソを入れながら、ガラス越しに一服する人を観察するのが楽しかったりする。たばこの挟み方とか吸い方に、その人の素が透けて見えるときもあるしね(笑)それに、やっぱりコーヒーとたばこって似合うでしょ?そういえば、そんな映画もあったな」

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地元の先輩のなかに決まってひとりいる気さくで話しやすい先輩。橋口さんは、そんな感じの人だ。

「毎日のように、近所のおじいちゃんやおばあちゃんがそこのベンチに座って、一服して帰っていく。それも街の風景として素敵でしょ。街に馴染むっていうのは、お店として大事だと思うんだよね」

正直、わざわざここを訪ねに福岡までは行かないだろうが、福岡に行った際は必ず訪れるだろう。TAG STÅは居心地が良いだけではない。胸を張って“お気に入り”と言いたくなるような場所だ。

「TAG STÅ」オーナー 橋口さん

お店の中から、ガラス越しに一服する人たちを見るのが楽しかったりもする。そういう街の風景って素敵ですよね。

TAG STÅ(タグスタ)

住所:福岡県福岡市中央区春吉1-7-11 スペースキューブ1F
営業時間:7:00〜20:00
Tel:092-724-7721
Instagram:@tagsta01

あなたの店にも「軒先」を。

広くて立派な軒先じゃなくてもいい。数人でシェアできる小さなスペースと灰皿があれば、いい出会いが生まれるはず。

たばこメーカー・JT(日本たばこ産業株式会社)では、店内の分煙や店先の灰皿設置など喫煙環境の整備に関する取り組みをおこなっている。軒先がほしくなった方はさっそくチェックするべし。

→分煙の取り組みをもっと知りたい→その他の分煙事例もチェック
Top image: © 2020 eeeeeeeno