英国王室は「NFT」と「ファインアート」の垣根を越えられるか?
かつて王室美術館、いまWeb3──。
「ファインアートのギャラリー」と聞けば、美術館や博物館など、巨大で荘厳な施設を思い浮かべるだろう。
でも、NFTやメタバースなどのWeb3が急速に普及した現在、その“在り方”は大きく変わろうとしている。
英国王室の“世界の人道主義者”ことサラ・ファーガソン・ヨーク公爵夫人が、新たなファインアートのギャラリー「Duchess Gallery」を立ち上げることを発表。
ただし、このギャラリーが開かれるのは現実の空間ではない。Web3上に、すなわちデジタルアートのアーカイブとして立ち上がるのだ。
デジタルとは言うものの、そこは厳粛な英国王室。彼女がキュレーションしようとしているのは、これまで流行ってきたアメリカのイラストなどとは一線を画すものであるらしい。
彼女が集めたい作品は、「Cinematic Fine Art」すなわち映画のように壮大なファインアートだという。ストリートやネットミームから派生したBAYCなどのNFTアイテムは論外、ということだろう。
ただ、その詳細は少し曖昧で、「ファインアートの伝統的な美学に最先端のテクノロジーを融合させた、ストーリーテリングの新しい形を生み出すことを約束する」とだけ主張している。
さて、それではCinematic Fine Artとはどのようなものなのだろうか。昨年12月に公開された、最初の展示作品を見てみよう。
なるほど、油絵をベースに緻密に組み立てられたシュルレアリスム風の構成、筆跡や絵の具ならではの発色と、伝統的なファインアートの美学を十分に見てとれる。
一方で、ヴェイパーウェイブ的な彫刻の写真や人物像のシルエットに詰め込まれたコラージュ等の要素からは、デジタル(=最先端のテクノロジー)の融合も感じられる。
この「Gateway To The Self」は、4人のアーティストと俳優のLaurence Fullerとコラボし、公爵夫人自らが手がけた作品だという。
これまでのアートの文脈では、ファインアートは伝統の姿を保ち、そこから乖離したアヴァンギャルドな作風は「モダンアート」として派生していった。そしてNFTも、モダンアート(そもそも芸術であるかはさておき──)およびストリートカルチャーから派生した存在であり、伝統を取り入れる姿勢とは距離を置いていた。
実際、法外な価格へと高騰したNFT作品は“セレブのお遊び”的なニュアンスが強まって、芸術的な側面は実験の域に止まっているのが現状だ。
全盛期が通り過ぎたいま、長く隔たれてきた2つを「融合」することで両者の新たな価値を切り拓くというのは、ヨーロッパならではというか、由緒ある英国王室らしい取り組みと言える。
ファーガソン氏は「世界中のアーティスト、特に世界的な舞台に立てないような貧困国のアーティストにスポットライトを当て、コラボしていきたい」と語っている。
事前活動なのか、芸術推進なのか、または資金集めなのか──。真意は定かでないが、取り組みとしては興味深い。
「ファインアート」の定義をも刷新する、英国王室による一大プロジェクトは、伝統を新時代の芸術へと進化させることができるのか。今後の行く末に注目だ。