米テック企業で“大量解雇”。きっかけとなった3つの出来事
今、アメリカのテック業界を中心として「大量解雇」が相次いでいる。
2023年最初の四半期(Q1)に約16万人の労働者が解雇。そのなかには、膨大な資本を投じて獲得した優秀なエンジニアたちも含まれていたという。
米ベンチャーファーム「SignalFire」が発表した2023年の人材状況レポートからは、優秀な人材であるにも関わらずテック企業が彼らを手放さざるを得ない状況に至った、3つの出来事が見えてきた。
以下、ひとつずつ紹介していこう。
①巣ごもり需要の拡大と大離職時代
周知の通り、2020年は新型コロナウイルスが世界的に蔓延した年。緊急事態宣言による外出自粛でほとんど外に出ることができない日々が続いた。
そんななか、ある2つの出来事によって企業の採用活動は活発になっていたらしい。
1つは、パンデミックによる“巣ごもり需要”の拡大。ビジネス、エンターテイメントなどのオンラインへの移行が加速し、テック業界にブームを巻き起こした。
もう1つは、「大離職(Great Resignation)」と呼ばれる社会問題。米国において労働者が自主的に職を辞める割合が高まる状況を指している。じつは、この離職傾向は10年ほと前から徐々に増加していて、2021年春以降に顕在化したとのこと。
パンデミックで高まった需要に対応すべく、企業の採用活動は加速した。ただ、“需給のミスマッチ”が主な原因となり離職者が増加したことも相まって、多くの企業が優秀な人材を確保するために市場価格を上回る報酬を支払うようになったというわけだ。
②インフレと対面活動の復帰
しかし、テック業界ブームや企業間の人材獲得競争の動きとは裏腹に、翌年の2022年は「インフレの1年」とも呼ばれるほど各国の物価高止まりや供給網の混乱、人手不足によって物価が上昇した年だった。
加えて、コロナも収束への兆しを見せたことで対面活動が徐々に復帰し、テック業界を後押ししたオンラインブームも下火傾向に。
これらの結果、テック企業らは優秀な人材のために支払っていた“過剰給与分”を回収できない状態となってしまった。
こうしたことから、企業は需要減少を相殺するために従業員を削減するしか選択がなかったようだ。
③資金調達ブームの終焉
ちなみに、パンデミックが起こってからの数年間は、投資家やスタートアップにとっても重要な時期だったようだ。
特に2021年は、シリコンバレーを中心にスタートアップが次々と誕生し、市場分析会社「Pitchbook」のデータによるとVC(ベンチャーキャピタル)の投資額は、過去最高の6280億ドル(約87兆円)にのぼったという。
しかし、インフレなどの社会状況を背景に取引数は減少し、早期・後期の両段階での投資において投資家の需要が低下。そのため、企業は新たな資金調達をまったく得ることができなくなり、ダウンラウンドを回避するためにも、赤字を減らすことに注力するようになったのだとか。
人件費は企業の予算において、ほとんど常に最大項目。多くは予想される収益成長に先立って資本を投じて採用をしている。その後収益目標を逸脱した結果、持続不能な赤字に直面していったようだ。
こうして、「FAANG(Facebook、Apple、Amazon、Netflix、Google)」をはじめとする企業から、大量解雇(レイオフ)は引き起こされた。
結果的に雇用における問題点が表面化したことからも、企業側は、“労働者の働きがい”と“持続可能な経済成長”の両方に目を向ける必要がありそうだ。