TikTok発のバイラルヒットが牽引する、コカコーラのSprite新戦略

ソーシャルメディア、特にTikTokが消費者の嗜好やトレンド形成に絶大な影響力を持つ現代において、食品・飲料業界の大手企業もその動向を無視できなくなった。

米Coca-Colaが期間限定で市場に投入した新製品『Sprite + Tea』は、まさにこの潮流を巧みに捉えた戦略の表れと言える。

レモンライムソーダの代表格であるSpriteとティーバッグを組み合わせるという、TikTok上で自然発生的に広まったバイラルな飲み方を製品化したこの動きは、ブランドの活性化と売上拡大を目指す同社の新たなアプローチを示している。

© bankoftea/X

インターン発のアイデアがTikTokで確信に

『Sprite + Tea』の開発は、当初「インターンのリサーチプロジェクト」としてスタートしたという。

Coca-Colaのスパークリング飲料部門でシニアクリエイティブディレクターを務めるA.P. Chaney氏によれば、適切なフレーバーバランス、テクスチャー、そして色合いに到達するまでには、数多くのブレインストーミングと消費者テストが繰り返された。この開発プロセスは、企業が新しい製品アイデアを生み出す上で、多様な視点を取り入れることの重要性を示唆する。

Chaney氏は声明の中で、「それがTikTokで数百万回の視聴回数を記録して大流行した時、我々が正しい方向に進んでいるという確信を得た。なぜなら、消費者の声に耳を傾け、彼らが日常的に行っていることに参加することで、間違うことはないからだ」と述べている。

このコメントは、現代の製品開発において、ソーシャルメディア上の消費者の行動やUGC(User Generated Content:ユーザー生成コンテンツ)がいかに貴重なインサイトとなり得るかを浮き彫りにする。

企業が一方的に製品を提案するのではなく、消費者が生み出すトレンドに寄り添い、それを製品化するというアプローチは、特にデジタルネイティブであるGen Z(Z世代)の共感を呼ぶ上で極めて有効な戦略。

Spriteは、今年初めにアメリカ国内で販売量第3位のソフトドリンクになるなど、依然として高いブランド力を誇る。

しかし、その地位に安住することなく、近年は新しいフレーバーの組み合わせでラインナップを積極的に刷新してきた。2019年にはSpriteとレモネードを組み合わせた「Sprite Lymonade」を発売し、2023年には消費者がCoca-Cola Freestyle(コカ・コーラの多種多様なドリンクを自由に組み合わせられる自動販売機)で作っていたフレーバーコンビネーションに着想を得て「Strawberry」フレーバーを投入した。

これらの動きは、消費者の創造性を製品開発に取り込むという、コカ・コーラの柔軟な姿勢を示している。

競争激化する市場でブランド鮮度を保つ限定フレーバー戦略の有効性

コカ・コーラがSpriteで展開する限定フレーバー戦略は、同社の旗艦ブランドであるCoca-Cola本体の戦略とも軌を一にする。

近年、Coca-Colaブランドでは、「宇宙」や「夢」といった抽象的な概念をフレーバーで表現しようとした「Creations」シリーズや、2024年のMondelēz International(モンデリーズ・インターナショナル)のクッキーブランドOreo(オレオ)とのコラボレーション、そして今年発売された「Orange Cream」フレーバーなど、実験的な製品が相次いで登場している。

これらの限定品は、消費者に新鮮な驚きを提供し、ブランドへの関心を喚起すると同時に、SNSなどでの話題作りにも貢献する。

フルーツフレーバーのソーダというカテゴリーにおいて、SpriteはPepsiCo(ペプシコ)の「Starry」や、「better-for-you(より健康によい)」を謳うPoppi(ポッピ)やOlipop(オリポップ)といった新興ブランドからのレモンライムフレーバー製品との競争に直面している。

このような市場環境下で、Spriteがブランドの鮮度を保ち、消費者の選択肢であり続けるためには、継続的なイノベーションと話題性が不可欠。

『Sprite + Tea』のようなユニークな限定フレーバーの投入は、まさにこの課題に対応するための有効な手段と言える。製品は、レギュラータイプとゼロシュガータイプの2種類で展開され、10月までの期間限定販売となる。

TikTokをアイデアの源泉とする大手企業の新たな製品開発トレンド

大手食品・飲料メーカーが次なる大きなトレンドを模索する中で、TikTokをアイデアの源泉や市場の反応を見るための“響板”として活用する動きが加速している。

2022年には、Kraft Heinz(クラフト・ハインツ)が、ハンバーガーをソースとポテトチップスにディップするというTikTok上のバイラルトレンドを受けて「Dip & Crunch」ソースを発売した例もある。

これは、企業がソーシャルメディア上の消費者の自発的な行動から製品開発のヒントを得て、迅速に市場投入するという、新しい製品開発サイクルの到来を示唆。

『Sprite + Tea』の事例は、企業が消費者トレンドをいかに製品開発に活かし、ブランドエンゲージメントを高めることができるかという点で、多くのビジネスパーソンにとって学びのあるケーススタディとなるだろう。

消費者の声に耳を傾け、彼らの創造性を尊重し、そして彼らが楽しんでいるコミュニティの一員となること。これが、デジタル時代のブランド戦略における成功の鍵なのかもしれない。

Reference: fooddive
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