世界のハイファッションが熱い視線を送るのは「食」!?新たなステータスシンボルへ

かつてファッション広告が高級住宅や華やかなナイトライフを映し出していた時代があった。

しかし今、その主役の座に躍り出たのは意外にも「食」だ。

サンローラン、プラダ、バーバリーといった名だたるファッションブランドが、広告キャンペーンに瑞々しいフルーツやバターが塗られたトースト、艶やかなチョコレートガナッシュなどを登場させている。

これは、食体験への関心の高まりと、食を新たなラグジュアリーとして捉える価値観の変化を色濃く反映している。

食がファッション広告の新たな主役へ

ファッション広告は、常にその時代の最もクールな出来事や憧れを映し出す鏡のような存在。90年代には美しい家が、2000年代には刺激的な夜遊びがその象徴だった。

そして現代、卵の価格が高騰し、人気レストランの予約獲得が熾烈な競争となる経済状況において、「食」を中心とした体験こそが、最もクールで価値あるものとして認識され始めている。

クリエイティブエージェンシーChandelierのチーフクリエイティブオフィサーであるMichael Scanlon氏は、『The Business of Fashion』に対し、「食はステータスシンボルになった」と語る。この言葉通り、Jacquemus、LOEWE、FILAといった多くのブランドが、こぞって広告に食の要素を取り入れている状況だ。

その表現も、単に美味しそうな食べ物を並べるだけに留まらない。

例えば、高級百貨店のNeiman Marcusは、著名なレストラン経営者Michael Chowや、シェフインフルエンサーのNara Smithといった食の世界のセレブリティを起用。

また、ニューヨークのレーベルKhaiteは、「ビールのカシミア」と名付けたカスタムラベルのMiller High Lifeボトルを制作し、スニーカーブランドのAxel Arigatoはスウェーデンルーツにちなんでシナモンロールを店内で提供するなど、食と飲料が店舗体験にまで進出してきている。

業界の垣根を越えるファッションと食の蜜月関係

近年、ファッションと食の境界線はますます曖昧になっている。

グッチ、ルイ・ヴィトン、ディオール、ラルフローレンといったラグジュアリーブランドが、高級レストランやカクテルバーを次々とオープンさせているのはその顕著な例。これらの店舗は、ブランドの世界観を五感で体験できる空間として、新たな顧客層の獲得にも貢献しているという。

一方、トレンディなレストラン側も、予約枠の販売方法を工夫したり、限定メニューアイテムにストリートウェアのようなアパレルグッズを含めたりすることで、「空腹」を「熱狂」へと転換させる動きを見せる。

ストリートウェアとファッションの祭典Family Styleの創設者Miles Canares氏は、Supremeの行列とロサンゼルスの人気フライドチキン店Howlin' Ray'sの行列に同じ人々が並んでいるのを見てこのイベントを始めたと語っており、ファッションと食のファンの間には興味深い共通項が存在することを示唆している。

この二つの業界の接近は、互いの顧客層にアピールし、新たな価値や体験を提供し合うという点で、非常に合理的な戦略と言えるだろう。

食が持つ日常性や親しみやすさが、ファッションブランドの敷居を下げ、より幅広い層へのリーチを可能にする一方、ファッションが持つトレンド感や高級感が、食体験に新たな付加価値を与える。

今後、この流れはさらに加速しそうだ。

『The Future Party』は、セレブリティシェフがカプセルコレクション(小規模な限定コレクション)をデザインし、食とファッションの関係をさらに深めるようなコラボレーションが登場しても驚かないと予測する。

食が持つ普遍的な魅力と、ファッションが持つ時代を切り取る力が融合することで、私たちのライフスタイルにどのような新しい刺激や楽しみが生まれるのか、その展開から目が離せない。

Top image: © iStock.com / Georgijevic
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