「DNA」がステータスシンボルとされ始めた?美の新たな基準は体内へ

かつて人々がSNSで共有する健康の証は、歩数や睡眠時間だった。

しかし今、その対象はより身体の深部、つまりバイオマーカーやホルモンレベル、さらには個人の遺伝子情報へとシフトしているようだ。

美しさの基準が外面から内面へと移行する、新たな価値観の潮流を英国のカルチャー誌『Dazed』が報じている。

パンデミックが変えた健康意識

この変化の背景には、パンデミックによって人々の健康に対する意識が根本から変わったことがあるという。

トレンドアナリストのJ’Nae Phillips氏はDazedの記事にて、かつては個人的な医療問題であった免疫機能や炎症といった内面的な回復力が、世間一般の関心事になったと指摘する。

Oura Ringのようなウェアラブルデバイスの普及は、この内面的な状態を可視化し、共有可能な指標へと変える技術的な土台を提供した。

「クリーンなデータ」という新たな社会的資本

ヘイリー・ビーバーやケンダル・ジェンナーといったセレブリティが、遺伝子検査やIVドリップ(点滴療法)といった医療行為をライフスタイルとして発信することで、このトレンドは加速。

完璧な臨床検査結果や最適な遺伝子情報といった「クリーンなデータ」を共有することは、高度なウェルネスにアクセスできる経済力と、それを維持する自己管理能力を証明する、新たな社会的資本として機能し始めているようだ。

Phillips氏は、これを「自身の生物学に対するコントロールが、単なる健康意識としてではなく、憧れの対象として見なされる文化的なシフト」だと分析している。

ヘルスケア体験のラグジュアリー化

「ヘルスケア界のApple」とも呼ばれるNeko Healthのような企業の台頭は、この潮流を象徴している。

同社は全身スキャンといった医療サービスを、洗練された空間で提供。その体験はSNSで共有したくなる一種のラグジュアリーなイベントとなっているという。

しかし、専門家は、こうしたトレンドが良い健康状態を得るための経済的・時間的コストが増大している現実の裏返しでもあると指摘する。

「良い検査結果」を生み出す生活様式そのものが、ますます一部の人々にしか手の届かない特権となりつつあるのかもしれない。

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