10ドルのハンドサニタイザーが「ステータス」の象徴に。若者を熱狂させるトレンドの裏側
高級ブランド品や流行のファッションアイテム – かつて、若者たちの間では、高価なものがステータスシンボルとして君臨していた時代があった。しかし、時代は変わりつつあるようだ。アメリカのニュースメディア、New York Post(NYPost)の記事によると、今、10代の若者の心を掴んで離さないのは、なんと10ドルで買える小さなハンドサニタイザーだという。
水筒から消毒液へ: 移り変わるトレンドの象徴
NYPostが報じたこのトレンドシフト。象徴的なのは、昨年まで若者の間で爆発的人気を誇っていたスタンレーのタンブラーの存在だ。45ドルもする水筒が飛ぶように売れ、街中で見かけない日はないほどの人気ぶりだった。しかし、その熱狂は過ぎ去り、今は「Touchland(タッチランド)」というブランドのハンドサニタイザーが、新たなトレンドの象徴として脚光を浴びている。
10代の若者たちは、まるで一昔前のトレーディングカードのように、Touchlandのハンドサニタイザーを交換したり、コレクションしたりしているという。ニューヨーク州マーマロネックの学校に通う13歳のジェンマ・バーンホルストさんは、NYPostの取材に対し「私たちはみんなたくさんのTouchlandを持っていて、毎日使っている」とコメント。サウスカロライナ州サマービルに住む11歳のエニタイム・ウィン・ボーシェーンさんも「いつも香りの評価をして、交換している」と証言している。
「かわいい」だけじゃない:所有から体験へ、価値観の転換
なぜハンドサニタイザーがここまで若者を引きつけるのか。もちろん、Touchlandのハンドサニタイザーは、カラフルでミニマルなデザインが特徴で、従来のハンドサニタイザーのイメージを覆すスタイリッシュなアイテムだ。ミストタイプで香りが良いことも、若者にとっては魅力的だろう。ミネアポリスに住む10歳のハンク・ウィナリーさんは、NYPostの取材に対し「楽しい色は、持っていて飾っておくのもかっこいい」と答えている。
しかし、彼らの心を掴むのは「見た目」だけではない。重要なのは、Touchlandのハンドサニタイザーが入手困難な状況が続いているという点だ。Sephoraなどで販売されているものの、品薄状態が続いており、ウィナリーさんは「手に入りにくくてすぐ売り切れてしまうのも魅力の一つ」と語っている。
これは、高価なブランド品がステータスシンボルであった時代とは大きく異なる点だ。かつては、高価なものを「所有」することがステータスであり、羨望の的となっていた。しかし、現代の若者たちは、誰もが簡単に手に入れられるものではなく、希少性が高く、特別な「体験」をもたらすものを求めているのかもしれない。
共感と個性:新たなステータスシンボルが示す未来
高価なブランド品から、比較的手頃な価格のハンドサニタイザーへ。若者のステータスシンボルが変化している背景には、物質的な豊かさよりも、個性を表現し、仲間との共感を重視する価値観のシフトが影響していると考えられる。
ソーシャルメディアの普及も、この流れを加速させていると言えるだろう。写真や動画で「映える」アイテムが拡散されることで、爆発的なブームが生まれる現象は、今後も加速していく可能性がある。
一方で、今回のハンドサニタイザーブームは、学校における新たな社会問題も浮き彫りにしている。一部の学校では、Touchlandのハンドサニタイザーを巡っていじめが発生し、授業中の使用を制限する事態も起きているという。ミネアポリスの学校に通う10歳のヴァイダ・ヤウンゼミスさんはNYPostの取材に対し「先生は『みんなたくさん持っているから』という理由で、机の上に1つだけしか置いちゃダメって言うの」と明かしている。これは、特定の商品を所有していないことが原因で、子どもたちが排除されたり、いじめられたりする可能性を示唆しており、物質主義や同調圧力といった、現代社会が抱える課題を改めて認識する必要性を突きつけている。
「所有」から「体験」へ、そして「共感」と「個性」へ。若者の価値観は、時代とともに変化し続けている。彼らの価値観の変化は、私たちが生きる社会の未来を映し出す鏡なのかもしれない。