捨てられるイチジクの葉から生まれた、次世代ノンアル「Fignare」

愛知県名古屋市に拠点を置く合同会社トラゲットが、これまで捨てられてきたイチジクの「葉」から生まれるガストロノミック・コンブチャ『Fignare(フィグナーレ)』を発表しました。農業廃棄物を高級ノンアルコール飲料へと昇華させるこの試みには、発酵科学とアップサイクルの新しい可能性が詰まっています。

「捨てる葉」に眠る香りの秘密

愛知県は、全国でも有数のイチジク産地として知られています。しかし、収穫後に残る大量の葉は、これまでほとんど活用されることなく廃棄されてきました。トラゲットの発表によれば、このイチジクの葉には果実以上に複雑で高貴な香気成分が秘められているといいます。

同社はこの未利用資源に着目し、愛知県の公的研究機関「あいち食品工業技術センター」との共同研究を実施。菌叢(きんそう)解析——つまり発酵に関わる微生物群の構成を科学的に分析する手法——と精密な発酵コントロールを駆使することで、葉の持つポテンシャルを最大限に引き出すことに成功したとのことです。

ここで注目したいのは、「アップサイクル」という言葉の射程が変わりつつある点ではないでしょうか。近年、食品ロス削減や廃棄物の再利用は社会的な関心事として広く認知されるようになりました。ただ、その多くは「エコだから価値がある」という文脈で語られがちです。Fignareが興味深いのは、廃棄物を「環境に良いから使う」のではなく、「果実以上の官能的価値があるから使う」というロジックで成り立っている点。サステナビリティとラグジュアリーが、無理なく同じ地平に立っているのです。

一口ごとに変わる表情

Fignareの味わいは、一般的なコンブチャのイメージとはかなり異なるようです。同社によると、グラスに注いだ瞬間にシナモンのような甘美なニュアンスが立ち上り、微かにココナッツを思わせるクリーミーな奥行きが広がるとのこと。さらに、シャンパンのようなドライな口当たりと、発酵由来の繊細な酸が全体を清らかに引き締め、知的な余韻を残すと表現されています。

コンブチャといえば、健康志向の発酵ドリンクとして世界的に人気が高まっている飲料です。もともとは東アジアを起源とする発酵茶飲料で、紅茶や緑茶にSCOBY(スコビー)と呼ばれる菌と酵母の共生体を加えて発酵させたもの。欧米では数年前からウェルネス文化の一環として急速に普及しましたが、日本国内ではまだ「健康飲料」の枠組みで捉えられることが多い印象があります。

Fignareが目指しているのは、その枠を大きく超えた「ガストロノミック・コンブチャ」という新しいカテゴリ。720mlで4,000円という価格設定からも、同社がこの製品をカジュアルな健康飲料ではなく、ワインやシャンパンと並ぶ食卓の主役として位置づけていることがうかがえます。

ノンアルは「妥協」ではない

近年、世界的に広がりを見せている「ソバーキュリアス」というムーブメントをご存じでしょうか。あえてお酒を飲まない、あるいは飲酒量を意識的に減らすライフスタイルを指す言葉で、特にミレニアル世代やZ世代を中心に支持を集めています。ノンアルコール飲料市場は世界的に拡大傾向にあり、単なる「お酒の代わり」ではなく、積極的に選ばれる飲料としての地位を確立しつつあります。

こうした潮流の中で、Fignareのペアリング提案は非常に示唆的です。同社はフォアグラのテリーヌやリッチなレバーパテとの調和、マンゴーやパッションフルーツの酸味を活かしたモダン・アジアン料理との組み合わせなどを提案しています。葉由来のボタニカルな香りが食材の脂の甘みを引き立て、多層的な味覚体験を演出するとのこと。

「イチジク」と聞くと、あの甘く柔らかな果実の味わいを想像しがちですが、同社はあえて「その固定概念を持たずに対峙してほしい」と呼びかけています。果実ではなく葉を原料にしているからこそ生まれる、まったく別の香りの世界があるのでしょう。

地方発の発酵技術が拓く道

Fignareの開発において見逃せないのが、公的研究機関との連携という点です。スタートアップが独自の感性やビジョンを持っていても、それを製品として安定的に実現するには科学的な裏付けが欠かせません。あいち食品工業技術センターとの共同研究によって菌叢解析に基づく発酵プロセスが確立されたことは、製品の品質と再現性を担保する大きな要素になっているはずです。

トラゲットは「Traghetto」ブランドとして、日本国内だけでなくASEAN諸国への展開も進めているとのこと。「Japanese luxury KOMBUCHA」というコンセプトで海外市場に挑む姿勢には、日本の発酵文化を新しい形で世界に届けようという意志が感じられます。

一般向けのオンライン販売は2025年5月10日から開始。飲食店やホテル向けの業務用サンプルは公式サイトから購入できるそうです。

捨てられるはずだった葉が、グラスの中で芳醇な香りを放つ——。その変容のプロセスには、「価値とは何か」を問い直すヒントが詰まっているように思えます。ノンアルコール飲料の選択肢がますます豊かになっていく今、Fignareのような存在は、私たちの食卓に新しい「選ぶ楽しさ」を届けてくれるのではないでしょうか。

©合同会社トラゲット

『Fignare』

【オンラインショップ】https://plus-kombucha.square.site/

Top image: © 合同会社トラゲット
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