捨てられるはずだった本から生まれた「ピクニックラグ」

長野県のオンライン書店・バリューブックスが、古紙に回されるはずだった本から生まれた「本だったピクニックラグ」を発売しました。ただのリサイクルではない、その仕掛けが気になります。

毎日1.5万冊が消えていく現実

©株式会社バリューブックス

バリューブックスの発表によると、同社には全国から毎日約3万冊の本が届くそうです。そのうち約半分は次の読み手のもとへ届けられますが、残りのおよそ1万5千冊は、市場の需給バランスから値段をつけることができず、古紙回収に回さざるを得ないとのこと。

年間に換算すれば、途方もない数の本が「読まれないまま」紙に戻っていく計算になります。古紙回収も立派なリサイクルではありますが、「本」という存在が持っていた物語性や文化的な重みは、パルプに溶けた瞬間に消えてしまう。同社が2022年に立ち上げた「捨てたくない本プロジェクト」は、まさにその喪失感に向き合うところから始まったようです。

プロジェクトの第一弾として誕生した「本だったノート」は、古紙になるはずだった本を再生紙に変え、ノートとして蘇らせるというもの。その後「漫画だったノート」「雑誌だったノート」とシリーズは広がり、今回のピクニックラグはその最新作にあたります。

紙なのに芝生で使えるワケ

©株式会社バリューブックス

「紙でできたラグ」と聞くと、すぐに破れたり濡れたりしないか心配になるかもしれません。同製品は素材の約70%が「本だった紙」、残り約30%がその他の再生紙で構成されていますが、裏面にラミネート加工が施されているため水をはじきやすく、濡れた芝生の上でも使えるとのこと。

サイズは90×135cmで、1〜2人でゆったり座れる大きさ。価格は2,750円(税込)です。軽量でかさばらず、しわになりにくく破れにくい設計で、表面はサラサラとした手触りのため芝生や枯れ葉が付きにくいそう。収納用のゴムバンドも付属しており、バッグにさっと入れて持ち運べる手軽さも魅力でしょう。

製造を担うのは、大阪府泉南市に本社を構える山陽製紙株式会社。創業は昭和3年という老舗の紙再生サービスメーカーで、「本だったシリーズ」のノート製作でもオーダーメイド再生紙の技術を提供してきたパートナーです。企画・編集担当の神谷周作氏が山陽製紙の開発した紙素材のピクニックラグを使う機会があり、「本だった紙でも作れるのではないか」と着想したことが開発のきっかけだったといいます。

ちなみに、紙の表面には元の本の文字のカケラがうっすら残っていることがあるそうです。同社はこれを「本だった記憶」と呼び、あえてそのまま残しているとのこと。不良品ではなく、来歴を物語る痕跡として楽しんでほしいという意図が込められています。

素材循環から「行動のデザイン」へ

ここで少し立ち止まって考えてみたいのが、このプロダクトが持つ独特の構造です。

近年、アップサイクルという言葉はすっかり定着しました。廃棄されるはずだった素材を、元の用途とは異なる新しい製品に生まれ変わらせる取り組みは、ファッションや食品、建材など幅広い分野で広がっています。グローバルな循環経済の潮流を見ても、紙素材は再生可能かつ生分解性に優れた素材として注目度が高まっており、サーキュラーエコノミー(資源を循環させ続ける経済モデル)の中核を担う存在と位置づけられつつあります。

ただ、多くのアップサイクル製品は「廃棄物をAからBに変換する」という素材循環の枠組みの中で語られてきました。環境負荷を減らすこと自体が価値であり、それは間違いなく大切なことです。

しかし「本だったピクニックラグ」が面白いのは、その先にもう一つの仕掛けがある点ではないでしょうか。同社はこの製品について、従来のシリーズが「紙として再生する」試みだったのに対し、今回は「本と過ごす時間そのものをつくる」ことを目指したと説明しています。

つまり、ラグを公園で広げたとき、「これは本だったんだ」と思い出す。そこから「せっかくだから今日は外で本を読んでみようか」という気持ちが芽生える——。製品の素材としての来歴が、使う人の行動を自然に変えていく。そんな設計思想が埋め込まれているわけです。

これは、循環経済の議論が「モノの循環」から「意味や行動の循環」へと一歩踏み出しつつあることを示す、小さくも象徴的な事例のように思えます。

本のある風景を外に持ち出す

バリューブックスは2024年10月にB Corp認証を取得しており、寄付事業「チャリボン」や本の寄贈活動「ブックギフト」、移動式書店「ブックバス」など、本を軸にした多面的な社会貢献活動を展開しています。買い取った本を売るだけでなく、売れない本にも居場所をつくり続けるその姿勢は、「本の生態系」を丸ごと引き受けようとしているようにも映ります。

スマートフォンに時間を奪われがちな日常の中で、「外で本を読む」という行為は、ちょっとした贅沢になりつつあるのかもしれません。お花見の季節に桜の下でラグを広げ、かつて誰かに読まれていた本の記憶に触れながらページをめくる。そんな時間の過ごし方を、捨てられるはずだった本たちが静かに提案してくれています。

「本だったピクニックラグ」は、バリューブックスのECサイトおよび実店舗「本と茶 NABO」にて販売中です。

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本だったピクニックラグ

【価格】2,750円(税込)
【サイズ】90×135cm(1〜2人での使用を想定)
【素材】紙素材(本だった紙70%+その他再生紙30%)
【加工】裏面ラミネート加工
【付属品】収納用ゴムバンド
【デザイン】otama
【印刷・製造】山陽製紙株式会社
【販売場所】バリューブックスECサイト、「本と茶 NABO」
【商品ページ】https://www.valuebooks.jp/bp/VS0063301782

Top image: © 株式会社バリューブックス
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