ただのノンアル、ではない。気分を「上げる」新感覚飲料ユーフォリック

ノンアルコールビールやエナジードリンクが日常に溶け込んで久しい。だが、飲料トレンドの最前線は、さらにその先へと進んでいるようだ。

渇きを癒す、身体的エネルギーを満たす――そんな従来の役割を超え、私たちの「気分」や「心」に積極的に働きかける新しい波。それが、「ユーフォリック飲料」と呼ばれるカテゴリー。“幸福感をもたらす”ともいわれるその名は、果たしてどんな新しい体験を私たちに予感させるのだろう。

ユーフォリック飲料って何?
ココロに寄り添う飲みものの正体

ユーフォリック飲料とは、アダプトゲン(ストレスへの適応力を高めるとされるハーブなど)やノートロピック(認知機能のサポートが期待される成分)、植物エキスといった天然由来の成分を含み、穏やかな高揚感やリラックス効果、集中力の向上などを目指す飲料のことを指す場合が多い。アルコールによる酔いやカフェインによるシャープな覚醒とは異なる、あくまで自然でポジティブな精神状態へと誘う。その点が新しい。

食品業界ニュースを伝える「The Food Institute」も、このユーフォリック飲料を、既存の機能性エナジードリンクとノンアルコール製品の「間」を巧みにつなぐ存在として注目。つまり、エナジー補給という「機能」と、アルコールを摂取しないという「選択」の利点を融合させつつ、さらに精神的な充足感という新たな価値を追求する動きと言えよう。

たとえば、仕事で疲れた夜に、穏やかなリラックスをもたらす一杯。大事なプレゼン前に、クリアな思考をサポートする一杯。あるいは、仲間との集まりで、アルコールなしでも自然と会話が弾むような、心地よい高揚感を与えてくれる一杯……。ユーフォリック飲料は、まるで自分のコンディションや気分をチューニングするような、新しいライフスタイルツールとなり得る。

ユーフォリック飲料が求められる3つの理由

この新感覚飲料への注目は、決して単なる流行ではない。私たちの価値観や社会の変化が、その登場を後押ししていると言えよう。

  1. ノンアル市場の劇的成長と「次」への期待: 「Mordor Intelligence」によれば、世界のノンアルコール飲料市場は2024年に1902億7000万米ドル規模となり、30年には2933億1000万米ドルに達すると予測されている。「Astute Analytica」の調査でも、日本のノンアルコール飲料市場は24年に376億米ドル、33年までには758億米ドルに達する見込みだという。 健康志向やライフスタイルの多様化がこの成長を牽引しており、「ただ飲まない」から「積極的に選ぶノンアル」へと意識がシフト。その延長線上に、プラスαの価値を持つユーフォリック飲料への期待が集まる。

  2. 「心」の健康もケアする機能性飲料へのニーズ: 「Statista」によると、世界の機能性飲料市場は2023年に1521億8000万米ドルを記録し、31年までには2297億8000万米ドルに成長する見込み。同社の別の調査では、日本の同市場も24年の84億8670万米ドルから、33年には201億9010万米ドルへと拡大すると予測されている。身体的な機能だけでなく、Mintelのレポートが指摘するように、消費者はストレス軽減やメンタルウェルビーイングといった「心」の健康に対しても、食品や飲料を通じたケアを求め始めており、リラクゼーション効果を謳う製品群は、まさにこのニーズに応えるもの。ある調査では、リラクゼーション飲料市場は今後数年間で13%以上の年平均成長率(CAGR)を示すと見込まれている。

  3. ウェルビーイング意識の高まりと新しい世代の価値観: ストレスフルな現代社会において、心身ともに健康で満たされた状態を目指す「ウェルビーイング」への関心はますます高まっている。特にZ世代など新しい価値観を持つ層は、日本能率協会総合研究所の調査によれば、飲酒においても「自分の楽しみ」や「社交」を重視しつつ、ノンアルコールという選択肢にも積極的だ。彼らは、従来の常識にとらわれず、自分にとって本当に心地よいもの、心身の健康に資するものを選び取る傾向にある。ユーフォリック飲料が提供する、穏やかでポジティブな体験は、こうした価値観と強く共鳴する。

これら市場のメガトレンドと消費者の意識の変化が交差する地点に、ユーフォリック飲料の存在意義があると言えるのではないだろうか。

飲む、は「整える」へ
ライフスタイルを彩る新習慣の予感

ユーフォリック飲料の登場は、単に新しい製品カテゴリーの誕生を意味するだけではない。それは、「飲む」という行為そのものの価値を、喉の渇きを癒すことから「心身の状態を整え、向上させる」ことへと、拡張する可能性を秘めている。

ソバーキュリアス(あえて飲まない選択)やマインドフルネス(今この瞬間に意識を向ける生き方)といった、より意識的なライフスタイルへの関心の高まりとも、この流れは無関係ではない。自分の心と身体の声に耳を澄ませ、その時々の状態に合わせて最適な一杯を選ぶ。それは、日々のパフォーマンス向上だけでなく、生活の質そのものを豊かにする行為につながるのではないだろうか。

また、ユーフォリック飲料の多くがハーブや植物エキスといった天然由来の成分を重視している点は、サステナビリティや透明性の高い製品を求める現代の消費者ニーズにも合致する。製品の背景にあるストーリーや、自然への配慮もまた、これからの飲料選びにおける重要なファクターとなっていくはずだ。

あなたの日常に
「ユーフォリック」という選択肢はあり?

ユーフォリック飲料が提案するのは、気分を自らデザインするという、これまでにない能動的な飲料との付き合い方だ。ストレスを和らげたいとき、集中力を研ぎ澄ませたいとき、あるいはただ穏やかなひとときを深く味わいたいとき。その時々の自分に最適な一杯を、まるで良質な音楽を選ぶように、あるいは心地よい空間を演出するように、選び取る。

それは、忙しい日々の中でつい見失いがちな、自分自身と丁寧に向き合う時間を取り戻すきっかけになるかもしれない。この新しい波は、私たちのライフスタイルにどんな彩りを加えてくれるのだろう。そして、あなた自身の日常に、この「ユーフォリック」という新しい選択肢は、どんな可能性をもたらすだろうか。未来の「飲む」体験は、もう、すぐそこまで来ている。

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