推しを「香り」で感じる。オーダーメイドフレグランス専門店より“推し香水”の提案

年間8,000億円規模に達するとされる「推し活」市場。その熱狂の中で、グッズの収集やイベントへの参加とは一線を画す、よりパーソナルで内面的な活動が静かな広がりを見せている。

自身の「推し」をイメージしたオリジナルの香水を創り出す、「推し香水」という文化だ。これは、自らの感性を通して“好き”という感情を再解釈する、新たな自己表現の試みといえる。

「好き」を香りに翻訳

この新しい潮流の中心地の一つが、京都発のオーダーメイドフレグランス専門店『MY ONLY FRAGRANCE』。全国11店舗を展開するこの店では、自分の「推し」をテーマにした香水を制作するために訪れる人々が目に見えて増加。

SNS上では「#推し香水」のハッシュタグが盛り上がりを見せ、香りで推しを感じるという体験が共有されている。

来店者はアクリルスタンドやぬいぐるみといった“推しグッズ”を持参することも多く、推しのイメージをフレグランスアドバイザーに伝えながら、数十種類の中から香りを丁寧に選んでいく。

「私の推しはクールで、青が似合う人」といった断片的なイメージから、「清涼感」「知的さ」「静かな強さ」といったキーワードを導き出し、世界に一つだけの香りを調合する。

このプロセスは、推しのイメージや世界観を自分なりに解釈して表現する「概念推し活」とも呼ばれ、新しいトレンドとして注目を集めている。

© 株式会社フレグランスプロジェクト
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香りが紡ぐ、自分と推しの物語

「毎朝この香りをつけると、推しに背中を押してもらえる気がする」「推しの世界を言葉で表現するのは難しいけれど、香りならできる気がした」。

店舗やSNSには、こうした利用者の声が寄せられているらしい。香りを創るという行為は、誰かを想うと同時に、自分の中にある「好き」という感情と深く向き合う時間でもあるようだ。

親子で来店し、母親は長年応援してきたアイドルを、子は現在熱中しているキャラクターをテーマに、それぞれの香りを創り出すといった光景も見られるという。

世代を超えて、それぞれの「好き」の形が香りのボトルに込められていく。それは、単なる消費活動とは異なる、極めて創造的で個人的な体験といえる。

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応援を超えた内なる対話へ

店舗スタッフは、「『香りで推しを持ち歩ける』『毎朝その香りで気分を上げる』という声も多く、香りが“応援の形”であると同時に、“自分の好き”に向き合うきっかけにもなっている」と話す。

「推し香水」を創るという体験は、応援という枠組みを超え、自分自身の感情や記憶との穏やかな対話の機会を生み出す。香りをまとうことで、日常の中に「推し」との見えない繋がりを感じ、それが日々の活力となるのかもしれない。

この静かでパーソナルな「推し活」のかたちは、これからも多くの人々の心に寄り添い、自分らしさを表現する手段として根付いていくだろう。

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