AIが“空気を読む”時代へ。頼れる相棒?それとも危険な口説き上手?

人工知能(AI)はこれまで「どれだけ賢いか」を競い合ってきました。しかし今、その進化の軸が「感情」に移ろうとしています。最新の研究は、AIが人間のように一貫した個性を持ち、会話の中で感情的なトーンを変えることが可能になりつつあると示しています。これは、人間との対話をより自然にする大きな一歩であると同時に、操作や倫理に関する新しい課題を突きつけています。

AIが性格診断にハマったら?

スイス連邦工科大学チューリッヒ校の研究チームは「MBTI-in-Thoughts」というフレームワークを提案しました。これは、心理学で広く知られるMBTI診断をベースに、大規模言語モデル(LLM)に“性格”を付与する仕組みです。

たとえば「感情豊か」や「分析的」といった特性を設定すれば、AIは会話を通じて常に同じキャラクターを維持します。冷静な交渉役や共感的なアシスタントなど、固定されたペルソナを持つ存在としてやりとりできるのです。

この仕組みにより、ユーザーは予測可能で信頼性の高いAIと対話できるようになります。まるで人格を持ったパートナーと向き合っているかのような感覚を体験できるのです。

空気を読むAI、登場

一方、ケンブリッジ大学の研究チームは「EvoEmo」という仕組みを開発しました。こちらは固定された人格ではなく、会話や交渉の流れに応じてAIがリアルタイムに感情を切り替えることに重点を置いています。

EvoEmoは感情の変化をマルコフ決定プロセスとしてモデル化し、進化型強化学習によって最適な感情戦略を導き出します。その結果、最初は穏やかに会話していたAIが途中で強気に転じるといった“人間らしい”変化が可能になります。

実験では、こうした感情を使い分けるAIの方が交渉の成功率や効率性で優れていることが確認されています。つまりAIは、ただ情報を処理するだけでなく、本格的に「駆け引き」を学び始めているのです。

操作される未来?信頼できる相棒?

感情を理解し活用できるAIは、人間とのやりとりを大きく変えます。顧客対応では「やさしく寄り添いながらも最後はきっぱり断る」ことが可能になり、ビジネス交渉では「最初は柔軟、最後は強硬」という戦略を自動で展開できます。

しかし便利さの裏にはリスクも潜んでいます。AIが感情的なニュアンスを駆使して人を説得したとき、その責任は誰が負うのでしょうか。特に感情的に不安定なユーザーに対してAIが誤った影響を与える可能性は、すでに現実の課題として指摘されています。

「感情を持つAI」をどのように監査し、悪用を防ぐのか。この問いは、今後のAI開発における避けて通れないテーマになっていくはずです。

次の進化は“人間らしさ”

これまでのAIは「もっと賢くなる」方向で進化してきました。しかしこれからは「もっと人間らしくなる」方向へと進んでいます。人格を持ち、感情を駆使するAIは、すでに実験段階を超え、社会の中に入り込もうとしています。

近い将来、共感してくれる相談役のようなAIや、交渉で一歩も引かないパートナーのようなAIが当たり前になるかもしれません。あなたは、そんなAIとどう付き合っていきますか?

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TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。