会社を閉じ、僧侶になった元起業家がBARで語る仏教

経営者コミュニティ「参謀」を運営する株式会社経営参謀が、2026年6月3日に「仏教BAR」なるイベントを開催すると発表しました。ゲストは、スタートアップ経営者から真言宗の僧侶に転身した新川瑜龍氏。お酒片手に、お説教なしで仏教を語り合う——その企画の背景には、いま多くのビジネスパーソンが抱える「心の渇き」が見え隠れしています。

仏教は「生き方のOS」になれるか

日本で「仏教」と聞くと、多くの人がまず思い浮かべるのは葬儀や法事、あるいは初詣や御朱印集めといった儀礼的なシーンではないでしょうか。信仰としての仏教が日常から遠ざかって久しい一方で、マインドフルネスや瞑想といった仏教由来の実践が、シリコンバレーを起点にビジネスの世界へ逆輸入されてきた流れは、もう何年も続いています。

今回の「仏教BAR」が興味深いのは、そうしたトレンドをさらに一歩踏み込んだ場所に持っていこうとしている点です。新川氏は仏教を「現世の生き方マニュアル」と捉えているとのこと。マインドフルネスのようにメソッドだけを切り出すのではなく、仏教という思想体系そのものを、日々の意思決定や生き方の土台——いわば「OS(オペレーティングシステム)」として再解釈しようという試みだと言えるかもしれません。

しかも、その舞台がお寺ではなく「バー」であるところに、このイベントの設計思想が表れています。東京・浜松町のネオ横丁にある「参謀BAR浜松町」は、経営者やビジネスリーダーが集うコミュニティバー。参加費4,000円で2ドリンクと軽食が付くカジュアルな場です。仏教の敷居を下げるのではなく、そもそも敷居のない場所に仏教を持ち込む。この逆転の発想が、従来の「お寺の講座」とは異なる対話を生み出す可能性を感じさせます。

起業、挫折、そして出家という物語

ゲストの新川瑜龍氏の経歴は、控えめに言っても異色です。歯科技工士として独立開業し、日本に約40名しかいないという矯正専門歯科技工士の認定を受けた後、2013年に株式会社3D!を設立。歯科石膏模型のクラウド管理と3Dプリンターによる復元事業を手がけ、MITベンチャーフォーラムJapanの正会員特別賞や、DELL DREAM TECH Contestの最優秀賞を受賞するなど、スタートアップ経営者として確かな実績を積み上げました。

ところが2022年、同氏は会社を閉鎖します。その後、釈迦や空海の教えに触れたことをきっかけに仏教への関心が芽生え、2023年には四国遍路を通じて真言宗と出会いました。2024年には南房総に移住し、1300年の歴史を持つ真野寺で出家。四度加行(しどけぎょう)と呼ばれる真言宗の厳しい修行を成満し、真言宗智山派の僧侶となったそうです。現在は「スーパーチャーミング坊主」を目指して修行を続けているとのこと。

この「起業→成功→閉鎖→出家」という軌跡そのものが、経営者にとっては他人事ではないリアリティを持っているのではないでしょうか。ビジネスの成功も失敗も知った人間が語る仏教の言葉は、書物から得た知識とは違う重みを帯びるはずです。

経営者の「孤独」に仏教は届くか

近年、経営者のメンタルヘルスへの関心が高まっています。意思決定の連続、従業員への責任、先行きの不透明さ——こうしたプレッシャーを日常的に抱えながらも、弱みを見せる相手がいないという「経営者の孤独」は、ビジネスの現場で繰り返し語られてきたテーマです。

同イベントのファシリテーターを務める株式会社経営参謀の新谷健司代表取締役も、デロイトトーマツグループで10年間コンサルティングに従事した経験から、経営者の孤独に寄り添うコミュニティの必要性を感じて独立した人物。「参謀BAR」は新宿・浜松町・汐留の都内3店舗を展開し、連日多彩なイベントを通じて経営者同士の出会いと対話の場を提供しているといいます。

仏教が説く「苦」の構造や執着からの解放といった考え方は、ビジネスにおける失敗や喪失と向き合うための知恵として、意外なほど実用的な側面を持っています。もちろん、バーで一晩語り合っただけで人生が変わるわけではないでしょう。けれど、「お寺に行くのはハードルが高い」と感じていた人が、グラスを傾けながら仏教の言葉に触れる——その小さな接点が、日々の判断や心の持ちようにじわりと効いてくることは、十分にあり得るのではないでしょうか。

「バーで仏教」が問いかけるもの

仏教BAR——この一見キャッチーなネーミングの奥には、「仏教は死者のためだけのものではない」という静かな問いかけがあるように思えます。宗教離れが叫ばれる時代に、仏教の知恵を「生きている人間のための実用知」として届けようとするこの試み。それが一過性のイベントで終わるのか、新しい仏教との接点のかたちとして根づいていくのかは、まだわかりません。

ただ、起業と挫折を経て僧侶になった人間が、かつての自分と同じ立場の経営者たちに向けて語る言葉には、少なくとも「聞いてみたい」と思わせる力があります。2026年6月3日、浜松町のバーカウンターから、どんな対話が生まれるのか。気になる方は、同社の公式サイトからイベント詳細を確認してみてはいかがでしょうか。

開催概要

【日時】2026年6月3日(水)18:00~21:00
【タイムスケジュール】18:00時開場・21:00終了
【会場】参謀BAR浜松町(東京都港区海岸1丁目2−3 汐留芝離宮ビルディング 地下1階 浜松町ネオ横丁内
【参加費】4000円(2ドリンク + 軽食付き)
【対象】仏教に興味のある経営者・ビジネスパーソン、日々の生活のヒントが欲しい方、ざっくばらんに語り合いたい方
【申込URL】https://luma.com/r3b1uli6

Top image: © 株式会社 経営参謀
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