猫の「空中ひねり」が宇宙へ。燃料を使わず姿勢を変えるロボット新技術

猫が高いところから落ちても足から着地する、あの「空中ひねり」。スペースエントリー株式会社の発表によると、この原理を宇宙ロボットの姿勢制御に応用する技術開発が始まったとのこと。しかも、燃料を一切使わずに。

猫のひねりを宇宙で再現する

宇宙空間でロボットが姿勢を変えるとき、これまではガスなどの推進剤を噴射する方法が主流でした。ロケットの小型版のようなイメージです。ただ、この方式には根本的な弱点があります。推進剤には限りがあるので、使い切ればそれまで。長期間の運用ではメンテナンスの問題が避けられませんし、噴射ガスが周囲のカメラやセンサーに悪影響を及ぼすリスクもあるそうです。

そこで同社が着目したのが、神戸大学の久保勇貴特命教授が研究を進める「非ホロノミック姿勢制御」という技術。少し難しい名前ですが、やっていることは猫と同じです。猫は空中で落下しているとき、外から力を加えられなくても、自分の身体の部位を順番にひねることで全体の向きを変えてしまう。角運動量がゼロのまま姿勢を転換できるこの原理を、人型ロボットの手足の動きに置き換えて、無重力空間での姿勢制御に使おうというわけです。

同社はこれを「世界初」と位置づけていますが、正確には「非ホロノミック姿勢制御を用いた無重量空間における人型ロボットの姿勢転換シミュレーション技術」としての新規性であり、2026年7月時点の同社調べとのこと。非ホロノミック制御そのものは学術的に先行研究がある領域なので、ここは冷静に受け止めておきたいところです。新しいのは、学術の原理を事業化フェーズに引き上げようとしている点にあります。

ISS退役後、誰がステーションを動かすのか

なぜ今、この技術なのか。背景には、2030年前後に訪れるとされる大きな転換点があります。NASAは現在、ISS(国際宇宙ステーション)退役後の民間宇宙ステーション構想を進めており、宇宙開発は国家主導から民間企業が主役の時代へと移りつつあります。

民間宇宙ステーションが実現すれば、施設の建設、保守点検、物流、さらには宇宙空間での製造まで、さまざまな作業をロボットが担うことになるでしょう。ところが現状では、ロボットごとに通信遅延対策や微小重力下の制御技術がバラバラに構築されていて、多様なロボットが共通で使える基盤が整っていないのだそうです。

スペースエントリーが取り組むもうひとつの柱が、まさにこの課題に向き合う遠隔操作技術の開発です。宇宙と地上の間で発生する通信遅延やデータ欠損があっても安定して操作できるアルゴリズムをつくり、将来的には専門家だけでなく一般の人々が宇宙ロボットを動かせる環境を目指すといいます。

「燃やさない制御」という発想の射程

茨城県の補助金を受けたスタートアップが、猫の動きを手がかりに宇宙の課題を解こうとしている。この構図自体が、宇宙開発=莫大な予算と巨大組織のものという思い込みを、静かに揺さぶっている気がしてなりません。

そしてもうひとつ、個人的に惹かれるのは「燃やさない制御」という発想そのものです。何かを消費して力を得るのではなく、すでにある身体の動きだけで状況を変える。それは地上の私たちが、エネルギーや資源との付き合い方を見直そうとしている感覚と、どこかで深くつながっているように思えます。

猫があたりまえにやっていることが、宇宙の最前線を変えるかもしれない。次に猫の着地動画を見たとき、ちょっとだけ見え方が変わっていたら面白いですよね。

Top image: © スペースエントリー株式会社
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。