小惑星まで400m。「はやぶさ2」の世界記録を支えた、地方高専の技術力
2026年7月、JAXAの小惑星探査機「はやぶさ2」が、小惑星「トリフネ」へのフライバイ探査で二つの世界初を達成。国立高専機構の発表によると、その成果を支えたのは島根と山口、二つの「高専」の准教授でした。
秒速5km、観測の窓はたった2秒
「おまけ」が世界記録になった

そもそも「はやぶさ2」は、フライバイ専用に設計された探査機ではありません。フライバイとは、天体のそばを高速で通過しながら観測するミッションのこと。
2020年に小惑星「リュウグウ」のサンプルを地球に届けたあと、燃料が残っていたことから「おまけ」のミッションとしてトリフネ探査が決まりました。
カメラやセンサーの向きを変える機構がないため、秒速約5km——東京から大阪まで約1.5秒で飛ぶような猛スピードで通過しながら、ピンポイントで天体を捉えなければなりません。
松江高専(島根県松江市)の浦川准教授は、この光学航法を担当しました。はやぶさ2のカメラが遠方から撮影したトリフネの画像を解析し、位置を高精度に割り出す仕事です。
JAXA、NASA/JPL(アメリカの宇宙探査を担うジェット推進研究所)、NEC、富士通などとの共同作業でした。
その精密な誘導の結果、はやぶさ2はトリフネの表面からわずか約400m(中心から約744m)を通過。これは太陽系の天体フライバイ探査で、史上もっとも近い距離です。
「宇宙の流鏑馬」を成功させた半年間
もう一つの世界初は、大島商船高専(山口県周防大島町)の末次准教授が担当したレーザー測距です。
レーザー高度計は1秒に1回だけレーザーを発射し、跳ね返ってきた光で距離を測る装置。しかしトリフネがその視野に入っている時間は、2秒にも満たなかったそうです。
約半年にわたる綿密な準備を経て、本番では最接近の約4秒前と約3秒前に反射光を検知。それぞれ約20kmと約15kmの距離を測定することに成功しました。
一瞬のフライバイでレーザー測距を実現したのは、世界で初めてのことです。
プレスリリースでは、この離れ業を「疾走する馬上から的を射抜く流鏑馬(やぶさめ)のよう」と表現しています。「はやぶさ」と「やぶさめ」——偶然の響き合いが、なんだか少し誇らしく感じられます。
「どこにいるか」より「何をやるか」

高専(高等専門学校)は、中学卒業後の5年間で実践的な技術を身につける教育機関です。全国に51校ある国立高専は、就職率の高さで知られる一方、「研究」のイメージはあまり強くないかもしれません。
でも今回、JAXAやNASAと肩を並べて世界記録を支えたのは、人口20万人の松江市と、瀬戸内海に浮かぶ周防大島の高専でした。大島商船高専にいたっては、1897年(明治30年)創設の船舶職員養成学校が前身です。
「どの大学に行くか」が進路選択の中心になりがちな日本で、この事実はちょっとした価値観の揺さぶりになるのではないでしょうか。
大切なのは看板ではなく、目の前の課題にどれだけ本気で向き合えるか。設計の想定外を工夫で乗り越えた「はやぶさ2」のミッションそのものが、そのことを証明しているように思えます。






