HOTEL SHE,の新ブランドが提案する「暮らしの試着室」

株式会社水星が、HOTEL SHE,のサブブランド「someone, kyoto」を2026年8月に京都で開業すると発表しました。全10室のホテルでありながら、部屋の家具を一晩使って購入できる「暮らしのショールーム」です。

「あのランプ、誰が選んだの?」

©株式会社水星

ホテルの客室にある備品って、ふだんはあまり意識しないものです。タオル、シャンプー、ベッドサイドのランプ——それらは「機能」として存在していて、誰がどんな思いで選んだかなんて考えもしません。

someone, kyotoは、その前提をひっくり返そうとしています。客室に置かれる家具・道具・アメニティはすべて、京都を拠点に活動するクリエイターやショップとの協働で選ばれたもの。蚤の市で仕入れた古物が部屋をスタイリングしていたり、グラフィックデザイナーの小林一毅さんがこのホテルのためにデザインしたブックエンドが棚に並んでいたりする。

つまり、ひとつひとつのモノに「選んだ誰か」の偏愛や暮らしの哲学が宿っているわけです。宿泊者はそれらを一晩じっくり使い、気に入れば客室内のカタログやECサイトからそのまま購入できる。「泊まる」が「選び、試し、持ち帰る」まで地続きになっている

家具や道具を買うとき、私たちはたいてい店頭で数分触るか、ECサイトの写真を眺めるかの二択を迫られます。でも、本当に自分の暮らしに合うかどうかは、数分では分からない。22㎡の空間で一晩過ごしてみて初めて、「この椅子の座り心地、朝の光の中だとこう感じるんだ」と気づくことがある。考えてみれば、洋服は試着してから買うのに、家具にはその機会がほとんどなかった。someone, kyotoが提案しているのは、いわば「暮らしの試着室」です。

観光地を巡らない旅のかたち

木製スツールの上に並べられた様々な釉薬や質感の陶片を手に取って吟味する様子
© 株式会社水星

もうひとつ面白いのは、このホテルが「旅」そのものを再定義しようとしている点です。

コンセプトに掲げられた「パラレルデイリーオアシス」という言葉。直訳すれば「並行する日常のオアシス」でしょうか。旅を「遠くへ行くこと」ではなく、「同じ街のどこかで営まれている誰かの日常に触れること」と捉え直しています。

観光地を巡って写真を撮り、名物を食べて帰る——そういう旅に少し疲れを感じている人は、実は少なくないのではないでしょうか。オーバーツーリズムが各地で問題になるなか、「その土地で暮らす人の目線」に静かに寄り添う滞在のかたちは、旅の次のフェーズを示唆しているように思えます。

10室だから宿る偏愛の密度

木製シェルフに飾られた銅製のモアイ像・木組みの動物パズル・ガラスオブジェなど、一室ごとに異なるキュレーションを感じさせる小物たち
© 株式会社水星

正直に言えば、気になる点もあります。全10室という規模は、キュレーションの密度を保つには理想的ですが、ビジネスとしてのスケーラビリティ——つまり、この体験をどこまで広げられるか——には限界があるかもしれません。クリエイターとの協働で一室ずつ丁寧に編集する手法は、100室のホテルではおそらく成立しない。

でも、だからこそ価値がある、とも言えます。大量生産・大量消費の反対側にある「10室分の偏愛」。それは、効率とは別の軸で宿泊体験を測り直す試みです。

代表の龍崎翔子さんが率いる水星は、金沢の「香林居」やHOTEL SHE,シリーズを通じて、ホテルを「泊まる場所」以上の存在に変えてきました。someone, kyotoは、その思想のさらに先にある実験。「今夜泊まる部屋が、明日からの自分の暮らしを変えるかもしれない」——そんな期待を持って予約ボタンを押す日が、もうすぐやってきます。

someone, kyoto(by HOTEL SHE,)

【開業日】2026年8月9日グランドオープン
【所在地】京都府京都市南区東九条南烏丸町36-19
【客室数】全10室(全室22㎡ツインルーム)
【予約】公式サイトおよびCHILLNNにて先行予約受付中

Top image: © 株式会社水星
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。