使い捨て電池よ、さようなら。ケンブリッジ大の藻が6年間発電し続けている
電池は使えば減る。それが当たり前すぎて、疑ったことすらないかもしれません。
でも、ケンブリッジ大学の研究室には「6年間ずっと動き続けている電池」があります。しかも、その中身は化学物質ではなく、生きた藻類です。
光合成が「電流」になる仕組み
ケンブリッジ大学生化学部のチームが開発した「バイオセル」は、シアノバクテリアと呼ばれる微生物の力を借りています。
シアノバクテリアは、地球上に数十億年前から存在する水中の微生物。太陽の光を浴びて空気中のCO2を吸収しながら成長する、いわゆる光合成を行う生き物です。
この光合成の過程で、電子が連続的に流れ出します。研究チームはその電子の一部を取り出して、電子機器の電力として使う方法を確立しました。
驚くのは、暗い場所でも電流が途切れないこと。藻類が生きている限り発電は続き、最長の稼働記録は6年間——しかもまだ止まっていません。
科学的リーダーのPaolo Bombelli博士は「電池の必要性そのものをなくすことが目標です」と語っています。
「何百万個の使い捨て」を置き換える発想
とはいえ、バイオセルの出力はかなり低く、スマートフォンやノートPCを動かすほどのパワーはありません。
では何に使うのか。チームが狙っているのは、リモコンや煙感知器のように「小さな使い捨て電池」で動いている膨大な数の機器です。
主任研究者のChris Howe教授は、従来の使い捨て電池について「地球にとって非常に有害」と指摘します。リチウムなどの採掘はエネルギーを大量に消費し、温室効果ガスを排出し、地域の生態系を壊す。一方、バイオセルは一般的で安価な材料から作られ、大部分がリサイクル可能だといいます。
「何百万もの小型使い捨て電池を、よりクリーンなエネルギー源に置き換えられる」——Howe教授のこの言葉は、1個の電池の性能ではなく「総量」で環境負荷を変えるという発想の転換を示しています。
科学を「製品」に翻訳するデザイナーの存在
この研究が始まったのは2006年。約20年にわたって藻類と向き合ってきたチームに、近年新たなメンバーが加わりました。アート・デザイン出身のバイオデザイナー、Lucia Gironさんです。
彼女は藻類で動くデジタル時計や温度センサーのインターフェースを制作し、「生きた仕組み」を人が触れられるプロダクトへと翻訳しています。研究室では実際に、バイオセルで鉢植えの光や気温、土壌の水分を測り、スマホアプリで確認できるシステムも稼働中です。
商用化に向けてはスピンアウト企業「e-Pho」が設立され、具体的な応用先についてクライアントとの協議が進んでいるとのこと。
私たちが日常で何気なく交換している小さな電池。その一つひとつが、実は採掘と廃棄の連鎖の上に成り立っています。
「電池を使い捨てる」のではなく「電池を育てる」。そんな感覚が当たり前になる日は、20年越しの藻類研究によって、思ったより近くまで来ているのかもしれません。






