クリニック承継の新しい形。AI・医療DXで地域医療を途切れさせない仕組み

もし明日、あなたのかかりつけ医が病気で倒れたら——その診療所はどうなるでしょうか。日本全国に約10万あるとされる診療所の多くは、院長ひとりが診療も経営も担っています。その一人が倒れれば「閉院」が現実になる。そんな構造に風穴を開ける動きが大阪で始まりました。

脳梗塞を経験した医師が、
それでも患者を診続ける理由

大阪府茨木市にある「茨木こうもと内科クリニック」。その前身となる診療所では、長年にわたって地域の患者を診てきた医師が脳梗塞を経験しました。

従来であれば、ここで選択肢は二つ。診療所を誰かに売却するか、閉じるか。けれど、長年通い続けてきた患者がいます。高血圧や糖尿病など、継続的な管理が必要な人たちの「かかりつけ」が突然なくなることの重みは、想像以上に大きいはずです。

そこで選ばれたのが「第三の道」でした。医師は診療に集中し、経営やバックオフィスの業務はすべて外部が引き受ける——医療と経営の分離です。

2026年9月1日から運営支援に入ったのは、東京科学大学認定ベンチャーのエクイタスメディカル株式会社。「すべての人に、途切れない医療を。」を掲げる同社は、2026年1月に設立されたばかりの若い企業です。

AIが医師を「代替」するのではなく、
医師が医師でいられる環境をつくる

注目したいのは、ここでのAI活用が「診療の自動化」ではないという点です。

導入されたのは、株式会社メドレーが提供するクラウド診療支援システム「CLINICS(クリニクス)」。電子カルテや予約・問診・決済といった患者の受診前後の体験をデジタル化するものです。

さらにAIは、院内マニュアルの作成、スタッフ教育資料の整備、患者向け案内文の作成、経営データの分析など、いわば「診療以外のすべて」を効率化する役割を担います。

人を増やすのではなく、仕組みで業務を減らす。その結果、医師は「週5日フルで働けなくても、自分のペースで患者を診続ける」ことが可能になります。

「承継」の意味が変わる時代に

この取り組みが示しているのは、クリニックの承継とは「誰が院長の椅子に座るか」ではなく、「地域の医療をどう途切れさせないか」というインフラの問題だということです。

院長の高齢化、後継者不足、経営負担——こうした課題は全国の診療所に共通しています。エクイタスメディカルは今後、茨木での運営ノウハウを標準化し、全国のクリニックへ展開する構想を掲げています。

「病気になったら引退」ではなく、「病気を経験しても、できる範囲で医療を届け続ける」。その選択肢があるだけで、救われる医師と患者がいるのではないでしょうか。

私たちが当たり前のように通っている「あの診療所」が明日も開いている保証は、実はどこにもありません。だからこそ、医師ひとりの体力に頼らない仕組みづくりは、医療の話であると同時に、私たちの暮らしの話でもあるのです。

茨木こうもと内科クリニック

【診療科目】内科・生活習慣病(高血圧・糖尿病・脂質異常症、かぜ・発熱・体調不良など)
【備考】予約優先(WEB予約可)
【公式サイト】茨木こうもと内科クリニック

Top image: © iStock.com / vetkit
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