ペットボトルがクッキーになる。酵母が書き換える「ゴミ」の定義
ペットボトルを分別して資源ごみに出す。その先にあるのは、溶かしてもう一度ボトルにするか、繊維にするか、あるいは結局燃やすか。そんなリサイクルの常識が、根っこから揺さぶられる研究が発表されました。廃プラスチックを、酵母の力で「食べられるクッキー」に変えてしまおうというのです。
ゴミの終着点が「バニラ風味」に
この研究を進めているのは、米サザンイリノイ大学カーボンデール校のチーム。2026年8月にシカゴで開催された米国化学会の秋季大会で成果が発表されました。
できあがったクッキーの名前は「µBites(マイクロバイツ)」。原料は、使い終わったPETボトルやトウモロコシの茎葉といった廃棄物です。
まず、高温高圧の水と酸素を使ってプラスチックや植物の廃棄物を細かく分解します。地質学が専門のKen Anderson教授が開発した手法で、硬い素材を微生物が食べられるサイズにまで砕くのだそうです。
そこに登場するのが、遺伝子操作された3種類の酵母。パン作りでおなじみの酵母の仲間たちが、分解された素材を代謝してタンパク質や脂質、さらにはバニラの香り成分やβ-カロテンまで生み出します。β-カロテンは体内でビタミンAに変わる栄養素です。
こうして酵母がつくった栄養成分に繊維やデンプン、甘味料を加え、3Dプリンターで成形して焼き上げる。ペットボトルだったものが、バニラ風味のクッキーになるわけです。
NASAが見据える
「補給が届かない場所」の食卓
なぜこんな研究が生まれたのか。背景にあるのは、NASAが主催する「Deep Space Food Challenge」、つまり月や火星への長期有人飛行で宇宙飛行士が何を食べるかという課題です。
地球から食料を送り続けるのは現実的ではありません。現地にあるもの、あるいは持ち込んだ廃棄物から食料をつくれたら。そんな発想が出発点でした。
ただし、この技術が届く先は宇宙だけではありません。研究チームは、災害で補給が途絶えた被災地や、長期間浮上できない潜水艦など、地上の極限環境も視野に入れています。
「まだ誰も食べていない」
という正直さ
夢のある話ですが、課題も率直に示されています。製造には33もの工程があり、最大2日間かかります。コストは1キログラムあたり約60ドル。
そして何より、まだ誰もこのクッキーを実際に口にしていません。安全性のデータは揃っているものの、試食には施設の承認が必要で、その手続きが進行中とのこと。
私たちが毎日捨てているペットボトルが、いつか誰かの食事になるかもしれない。そう聞くと正直、少し身構えます。でも考えてみれば、リサイクルのゴールが「もう一度ボトルになる」だった時代から、「人の栄養になる」へと跳躍しようとしている。ゴミの定義そのものが書き換わる瞬間を、私たちは目撃しているのかもしれません。






