未来の食卓をデザインする「フードテック」革命:2050年の食卓はどうなる?
目次
食の未来を、テクノロジーでデザインする。そんな夢のような話が、今まさに現実になりつつある。それが「フードテック」だ。
世界中で注目を集めるフードテックは、食糧(食料)問題や環境問題といった地球規模の課題を解決する可能性を秘めた、食×テクノロジーの融合をあらためておさらいしていこう。
フードテックとは?
AIやロボットが食卓を変える
フードテックとは、「Food(食)」と「Technology(技術)」を組み合わせた造語。AI、IoT、バイオテクノロジーといった最先端技術を駆使し、食に関するあらゆる課題を解決しようとする取り組み、あるいはその技術そのものを指す。従来の農業や食品製造の枠組みを超え、生産効率の向上、食品ロスの削減、食の安全性の確保、健康的な食生活の実現、環境負荷の低減など、目指すところは多岐にわたる。
フードテックが注目されるのは、地球規模で深刻化する課題への対応策として期待されているからと言えよう。「国際連合広報センター」によると、2050年には世界人口は97億人規模に増加すると予測されている。世界で食料不足や飢餓に苦しむ人がいるいっぽうで、食料生産量の3分の1は廃棄されているという現状もある。
また、気候変動による異常気象や自然災害の増加も、食料生産に深刻な影響を与えている。同広報センターは、「気候変動は食料安全保障に対する深刻な脅威であり、特に脆弱な地域社会に大きな影響を与える可能性がある」と警鐘を鳴らす。
さらに、食生活の変化や生活習慣病の増加も、現代社会が抱える大きな問題だ。厚生労働省の「健康日本21(第二次)」では、食生活の改善による健康寿命の延伸が重要な目標として掲げられている。フードテックは、こうした課題を解決し、持続可能な食の未来を創造する可能性を秘めている。
世界と日本のフードテック事情
巨大市場で繰り広げられる、熾烈な競争
世界のフードテック市場は、まさに爆発的な成長を見せている。「三菱総合研究所」による試算では、2020年時点で24兆円だった世界のフードテック市場規模が、2050年には280兆円にまで成長する可能性があるという。市場をリードするのはやはり代替肉とみられ、昆虫飼料も2019年の0.1兆円から2050年には24.2兆円まで拡大する可能性が。
代替たんぱく質、垂直農業、宅配サービス、食品廃棄物削減といった分野をはじめ、世界中の企業や投資家が巨額の資金を投じる現在。フードテックは、まさに「金の卵」を産むニワトリとして、世界経済を牽引する存在になりつつある。
いっぽうで、日本のフードテック市場は、世界に比べて出遅れていると言わざるを得ない。農林水産省の資料「フードテックをめぐる状況」によると、2020年時点における日本のフードテックへの投資額は、アメリカの約2%程度にとどまっている。「フードテックの分野において、日本は海外に比べて投資額が少なく、スタートアップ企業の数も少ない」と指摘する声も。
政府は、2020年に「フードテック官民協議会」を設立し、産学官連携による研究開発や規制改革、人材育成などを推進することで、巻き返しを図ろうとしている。日本のフードテック市場が抱える課題は山積みだが、独自の技術や文化を活かしたビジネスチャンスも豊富に存在する。発酵食品、精密農業、ロボット技術といった分野では、世界をリードするポテンシャルを秘めていると言えよう。
フードテックビジネス最前線
食の常識が変わる!
フードテックは、多岐にわたる分野でイノベーションを起こしている。ここでは、Z世代の心を掴む、注目の最新事例を紹介しよう。
01. 植物肉を超えて。代替たんぱく質の多様化
健康志向や環境意識の高まりから、世界的に注目を集めている代替たんぱく質。大豆由来の植物肉だけでなく、昆虫食、培養肉、藻類など、様々な選択肢が登場している。
なかでも培養肉は、動物を殺傷することなく、環境負荷も低く生産できることから、倫理的な消費を志向するZ世代から熱い視線を浴びている。細胞から食品や原料などを作る「細胞農業」の実現を目指すのは、フードテック企業「インテグリカルチャー株式会社」。彼らもまた、高品質で低価格な細胞性食品の開発に取り組んでいる。
02. 個別の整体データに基づく「栄養のパーソナライズ化」
遺伝子検査サービスの普及により、個人の体質や栄養状態に合わせた「パーソナライズド・ニュートリション」も注目を集めている。生体データや食事内容の画像データから解析し、一人ひとりに最適な食事やサプリメントなどを提案する、いわば栄養のパーソナライズ化だ。
テクノロジーを用いることで健康的な食生活をサポートするこうしたサービスだが、Z世代は、自分の体や健康に関心が高く、テクノロジーを活用したセルフケアにも積極的。手軽に受けられるアプリやサービスも増えており、市場は今後も拡大していくと予想される。
たとえばヘルステックベンチャー「株式会社FiNC Technologies」が提供するアプリ「FiNC」は、パーソナライズされた栄養指導サービスの提供でZ世代を中心に人気を博している。
03. ドローン配送やAI活用でフードデリバリーがもっと便利に
フードデリバリーサービスは、コロナ禍の影響もあり、近年利用者が急増している。ドローンや自動運転技術を活用した配送システムの開発が進み、より速く、より効率的な配送が可能になりつつある。また、AIを活用した需要予測や配達ルートの最適化によって、フードロス削減にも貢献している。中国の「Ele.me」やアメリカの「DoorDash」は、ドローン配送の実証実験を進めており、実用化も間近とされている。(※11)
04. VRレストランや3Dフードプリンター「食体験」の進化
VR技術を使った「VRレストラン」や、食材を積み重ねて立体的に造形する「3Dフードプリンター」など、食の体験を拡張するフードテックも登場している。VRレストランでは、自宅にいながらにして、世界中のレストランの雰囲気や料理を楽しむことができる。3Dフードプリンターは、個人の栄養ニーズに合わせた食事や、見た目にも美しい料理を作ることが可能だ。これらの技術は、食のエンターテイメント性を高め、新たな食文化を創造する可能性を秘めている。スペインの「El Celler de Can Roca」は、VR技術を活用したユニークな食体験を提供し、話題を呼んでいる。(※12)
フードテックが創り出す、食の未来予想図
持続可能な社会の実現に向けて
2030年、5年後の食卓は今とはまったく違うものになっているかもしれない。スーパーマーケットの棚には、植物肉や培養肉が当たり前のように並び、3Dフードプリンターが、個々の好みに合わせた料理を提供している可能性もある。すでにレストランでは、ロボットが調理や配膳を行い、テクノロジーは食の領域を拡張しつつある。
フードテックは、食料問題、環境問題、健康問題など、私たち人類が直面する様々な課題を解決する糸口となるポテンシャルを秘めている。食料生産の効率化やフードロス削減によって、食料不足や飢餓の撲滅に貢献し、環境負荷の低い食料生産システムを構築することで、地球環境を守ることも期待できるだろう。栄養バランスの改善や食の安全性の向上によって、人々の健康寿命を延ばすことも可能かもしれない。