3Dプリンター技術が実現する「未来の食」とは?
近年、急速な進化を遂げる3Dプリント技術。
かつては模型やフィギュアなどのホビー界隈、そしてネジやボルトといった部品類の制作などに活用されることが多かったテクノロジーだが、今や建築物を生み出し、ひとつの街を構築するまでに発展している。
そんな3Dプリント技術の“最前線”といえば、そう──「食」にまつわる素材の開発だ。
急速に進化する「バイオプリント技術」とは?
「食材がキッチンのシンクの横で生み出される時代」──。
そんなSF作品のワンシーンとして登場するような世界を実現するかもしれない最新のテクノロジーが「バイオプリト技術」と呼ばれるもの。
イスラエルに本拠地を置く「Steakholder Foods」が開発に成功したのは、なんと魚のフィレ。
かねてより各国のテック企業は3Dプリントによる代替“肉”の開発には成功していたものの、肉よりも繊細な繊維感が特徴の魚類の身の再現は同社いわく“世界初”とのこと。
もちろん、3Dプリンターによって誕生した魚のフィレは実食が可能。
タンパク質、炭水化物などのさまざまな有機化合物を組み合わせることで、魚肉の食感、味を再現しているのだとか。
そんな最新技術・3Dプリントのテクノロジーが急速に発展した背景には、世間の「プラントベースフード」への注目や関心、そして期待の高さがあるといえるだろう。
世界中に拡大する
「プラントベースフード」という文化
「プラントベースフード」とは、多様な消費者の嗜好に対応するため、動物性ではなく植物性の原材料を使用した畜産物、水産物に似せた食品のこと。
肉、卵、ミルク、バターやチーズなど、その種類はさまざまだが、欧米はもちろん、日本をはじめとするアジア圏でもその支持を拡大させている。
「マクドナルド」や「モスバーガー」といった、おそらく多くの人が利用したことがあるであろう、誰もが知るファーストフードのお店などでもプラントベースのメニューが続々と。さらに、最近ではスーパーマーケットなどでもプラントベースの代替肉が手軽に手に入れられるほどにプラントベースの代替肉は普及している。
気鋭の技術が実現する
「食文化」と「未来」
本物に限りなく近い、あるいは本物の肉よりもおいしい代替肉を作ることを目指して各国の企業や研究機関がしのぎを削っているが、それ自体は“目的”というよりは“手段”でしかない。
最終的な目標は、代替肉の普及を通じて地球のタンパク源生産を持続可能なものに近づけていくことだ。
そしてもちろん、フード3Dプリンターで作れるのは肉だけではない。3Dプリンターで作られた食品の価格が下がり気軽に食べられるものとして普及すれば、さまざまなことが可能になるだろう。
たとえばアレルゲンフリーの代替食。
小麦アレルギーの人も、見た目や味、食感は小麦を使用するケーキそっくりだが、アレルゲン物質を含まないケーキをもっと手軽に楽しめるようになる。アレルギーを持たない家族や友人と限りなく近い味や食感のものを食べることができるのだ。
そのほかにもフード3Dプリンターは介護の現場でも活躍する可能性を秘めている。
ものを飲み込むことが困難な嚥下障害の方や、歯が弱ってしまいうまく噛めない高齢者の方なども、硬さを調節してプリントすることで健康な方と同じように食事を楽しむことができる。既存の嚥下食はミキサーにかけられるなどしているため、食欲のわかない見た目になっているものも多く、そのせいでさらに食が進まず栄養失調に陥る人も......。しかし、見た目を自由に生成できるフード3Dプリンターはそんな問題も解決してくれる。
フードロスに対しても、改善に向けてフード3Dプリンターにできることがある。
調理前の状態の食材を粉末状にして長期保存し、必要なときに3Dプリンターで成形する。これなら食材が傷んで食べられなくなってしまうことも、豊作貧乏に陥ることもなくなるかもしれない。
また、フード3Dプリンターでは水産資源の培養が可能である点も大きな強みだ。
刺身や焼き魚は日本人にはとくに馴染み深いが、漁業も持続可能であるとは言いがたい。2018年に発表された国連の推定によると、約80%の水産資源が乱獲され枯渇しかけているのだ。養殖や栽培漁業と合わせてフード3Dプリンターによる魚類の生産は漁業を持続可能なかたちに近づけていくことができるだろう。
フード3Dプリンターによる海産物生産には独自の強みもある。
養殖とは違って、マイクロプラスチックの混入や寄生虫による食中毒なども防げるため、より安全に魚を食べることが可能。そして、生産に海や湖を必要としないため、水産資源に乏しい内陸地域でも手軽に魚介類を生み出すこともできる。海の豊かさも、私たちの食生活の多様さも同時に守っていくことができるといえるかもしれない。
それぞれに合わせてカスタマイズしたものを一緒に食べ、おいしさをシェアする。
この食の体験のシェアにおけるハードルを下げることができるのが、フード3Dプリンターの技術なのではないだろうか。
食の可能性を広げ、さらに多くの人が食べることをもっと楽しめるようにするために、フードテック関連の研究は今後さらに加速していくだろう。
【当記事は「TABI LABO」および「NEW STANDARD株式会社」が
「UT-ONE」とのコラボレーションにより制作したものです】
「UT-ONE」とは「ソニーの社会連携講座 IGNITE YOUR AMBITION」の一環であり、「全ての東大生がライフワークとなるテーマを見い出し共感し合える仲間と共に挑戦していく基盤を作る」ことを目的とした東京大学教養学部の主題科目です。
執筆者:後藤笑、須田基暉、鷲見将太郎