植物工場の照明は「消す」が正解だった。電力80%減のパルスLED技術
植物工場の照明は、24時間つけっぱなしが当たり前。そんな常識を覆す技術が、カナダで商用規模の実証に成功しています。
電力を最大80%減らしても、収穫量は変わらない。鍵は「光を当て続ける」のではなく「消すべき瞬間を知っている」ことでした。
植物が「光を要らない」時間
カナダ・カルガリーに拠点を置くSmartGRO Bioengineering社が開発したのは、人間の目には捉えられないほどの速さでLEDを点滅させる「パルス照射」技術です。
植物の光合成には、光を使ってエネルギーを取り込む段階と、そのエネルギーを使って糖をつくる段階の2つがあります。後者の段階では、実は光を必要としません。
つまり、植物が光を使っていない瞬間にも照明を当て続けるのは、純粋にエネルギーの無駄だったわけです。
パルスLEDは、この光合成のリズムに同期するように超高速で点滅します。人の目にはずっと点いているように見えますが、植物にとっては必要なタイミングだけ光が届く仕組みです。
アルバータ州の屋内農場Hydragreens Produceなど複数の施設で行われた商用規模の試験では、通常の連続点灯LEDと同等の収穫量を維持しながら、電力使用量を最大80%削減できたと報告されています。
「光を止める」に国家が賭ける理由
植物工場にとって、照明の電力コストは運営費の中で最大の割合を占めます。いくらLEDが蛍光灯より省エネでも、24時間365日灯し続ければ電気代は膨らみます。
80%の電力削減は、単なる省エネの話ではありません。植物工場というビジネスモデルそのものの採算ラインを変えうるインパクトです。
カナダ連邦政府もそう判断したのでしょう。2026年9月、カナダ農業・農産食品省のHeath MacDonald大臣は、農業クリーン技術プログラムを通じてSmartGRO社に約89万4,673カナダドルの助成金を交付すると発表しました。
この助成は、総額7.5億カナダドル規模の国家食料安全保障戦略の一環です。気候変動への適応と食料の安定供給を同時に目指す国家戦略の中に、「照明を消す技術」が組み込まれている。そこに、この技術の射程の広さが見えます。
「もっと光を」の先へ
日本でも植物工場の電力コストは長年の課題です。照明の省エネ研究は各社が取り組んでいますが、発想の多くは「より効率のいいLEDをつくる」方向でした。
SmartGRO社のアプローチが面白いのは、照明そのものを改良するのではなく、植物の生理に合わせて光の「間」を設計したこと。育てるために必要なのは、より強い光ではなく、より正確なリズムだったのです。
「足りないなら増やす」ではなく「要らない分を引く」。その発想の転換が、食料とエネルギーという2つの課題を同時に動かしはじめています。






