えっ、瓦工場の2階で「エビが育つ」って!?
愛媛県今治市が発表したプレスリリースによると、同市菊間町の旧瓦工場跡地に、バナメイエビの陸上養殖を行う実証試験場がオープンしました。瓦の町で、エビ。この組み合わせの裏には、「地域のいらないもの」同士を掛け合わせるという、ちょっと痛快な発想がありました。
廃工場と排熱海水が「宝」に見えた理由

菊間町といえば、「菊間瓦」で知られる瓦産業の町です。ところが近年、住宅様式の変化や新築住宅の減少によって瓦の需要は縮小し、使われなくなった工場が目立つようになっていました。
この状況に新しい光を当てたのが、今治市の地域おこし協力隊員である藤原敏光さん。もともとメカニカルエンジニア——機械設計の技術者として働いてきた人物です。
藤原さんは廃工場を前にして、こう振り返っています。「瓦の廃工場は、地域にとってはいらないものかもしれない。でも、私には宝に見えました」。
技術者の目が捉えたのは、建屋の構造だけではありませんでした。菊間町には太陽石油の四国事業所があり、石油精製の過程で生まれる排熱海水——つまり、温められた海水が日常的に発生しています。通常なら「処理すべきコスト」でしかないこの温水が、エビの成長にはちょうどいい環境を作れるのではないか。藤原さんはそこに着目しました。
廃工場という「余りもの」と、排熱海水という「余りもの」。この2つを掛け合わせた先に、バナメイエビの陸上養殖という答えが見えてきたわけです。
エビが異業種をひとつにした

藤原さんはまず、持ち運びできる水槽を屋内に設置し、小規模な養殖を始めました。育てたエビを地域のイベントで販売したり、試食会を開いたり。「菊間のエビ」という名前は、そうした草の根の活動のなかで少しずつ認知を広げていったそうです。
注目すべきは、この個人の挑戦が地元企業の心を動かしたという点でしょう。民間事業の第一号として参入したのは、地元の廃棄物処理企業である有限会社菊間衛生社。同社が瓦工場跡地を養殖施設として再生し、太陽石油四国事業所が排熱海水を提供するかたちで、実証試験場が整備されました。
瓦産業、廃棄物処理業、石油精製業。まったく異なる業種が「エビ」を接点に結びつく構図は、計画的に設計されたというより、一人の人間の行動が共感の連鎖を生んだ結果に見えます。藤原さん自身も「地域を代表する企業と結び付けられないかという思いに共感していただき、ここまで来ることができました」と語っています。
負債×負債=資産という方程式

この「菊間のエビ」、陸上養殖で飼育環境を徹底管理しているため薬品を使わず、殻までやわらかくて丸ごと食べられるのだとか。今後はブランド化の推進やふるさと納税の返礼品への展開、さらには「瀬戸内陸上養殖ネットワーク」の形成まで構想されています。
もちろん、実証試験の段階であることは忘れてはいけません。安定した生産量の確保、採算性の検証、販路の開拓など、乗り越えるべきハードルはまだたくさんあるはずです。
それでも、この話が面白いのは「負債×負債=資産」という方程式が成り立つかもしれない、と示してくれたこと。日本中の地方都市に、使われなくなった工場や、捨てられているエネルギーがあります。あなたの地元にも、誰かが「宝に見えた」と言い出すのを待っている「余りもの」が、きっとある。






