教科書を届け終えた倉庫が、アートの「余白」になる。京都・山科の新実験

冬から春にかけて、京都中の学校へ教科書を届けるための倉庫があります。では、届け終わった夏から秋の半年間、その空間はどうなるのか。京都府教科図書販売株式会社が出した答えは、「現代アートの実験場にする」でした。

教科書を届ける場所が
問いを生む場所へ

築60年のビルの1階に新設された大きな窓と赤い扉。外の横断歩道や公園、街並みが一枚のガラス越しに見える内観
© 京都府教科図書販売株式会社

2026年9月5日、京都市山科区にオープンする山科倉庫ギャラリー「余白 -YOHAKU-」。築60年のビンテージビルの1階、約37坪・天井高およそ3.5メートルの空間が、その舞台です。

運営するのは、1950年の創業以来76年にわたり京都の学校へ教科書を届けてきた卸売企業。入学シーズンに向けた検品・出荷がピークを迎える冬〜春に対し、6月から11月はほぼ倉庫が空く。

この「使わない半年」を、同社は経営上の課題ではなく「余白」と名づけました。毎年、閑散期だけ期間限定でアートスペースとして開放する計画です。

空間デザインも興味深い。もともと連続するシャッターで閉じられていた外壁を取り払い、大きな窓を新設しています。隣には公園があり、遊ぶ子どもたちや行き交う車が自然と視界に入る。作品と山科の日常が、ガラス一枚でゆるやかにつながる設計です。

「知識を届ける」と「問いを生む」が
同居する建物

グループ展「In the Margin」の告知ビジュアル。参加作家名(ヒロ杉山、伊藤桂司、張霆、抜水摩耶、山崎由紀子)が並ぶ
© 京都府教科図書販売株式会社

開館を飾るのは、アーティストのヒロ杉山氏がキュレーションしたグループ展「In the Margin」。伊藤桂司氏、張霆氏、抜水摩耶氏、山崎由紀子氏を含む5名の画家が参加します。

全員が京都芸術大学にゆかりがあり、教授と卒業生という関係。「教える人」と「学んだ人」が、ここでは対等な表現者として並ぶ構図が、教科書倉庫という場所と不思議に響き合います。

ヒロ杉山氏は「余白とは単なる空白ではなく、異なる視点が交わり、新しい対話が始まる場所」とステートメントで語っています。

「使わない時間」を
負債にしない発想

教科書の段ボール箱が積まれた倉庫内部。天井の配管や照明がそのまま残る空間
© 京都府教科図書販売株式会社

効率化が叫ばれる時代、遊休スペースはしばしば「もったいない」「コストがかかる」と語られます。空きビルや閉店後の店舗をどう埋めるか——それは都市でもローカルでも共通の悩みでしょう。

でも「余白」が示しているのは、埋めることではなく、空いているからこそ生まれる可能性のほうです。

代表の新井慎平氏は「物流倉庫がアートを介して実験的な表現の場へと変わる。その変化を通して、山科から新たな文化と学びの発展につながれば」とコメントしています。

私たちの暮らしや仕事にも、実は「余白」はあるのかもしれません。スケジュールの隙間、使っていない部屋、何もしない週末。それを埋めなきゃと焦るのではなく、「ここに何が生まれるだろう」と眺めてみる。京都の教科書倉庫が教えてくれるのは、そんな小さな視点の転換です。

山科倉庫ギャラリー「余白 -YOHAKU-」

【開館日】2026年9月5日(土)
【所在地】京都市山科区西野八幡田町9-1
【アクセス】JR・京都市営地下鉄・京阪「山科駅」より徒歩約17〜19分/京都市営地下鉄東西線・京阪京津線「御陵駅」より徒歩約12分(京都駅から山科駅まで電車約5分)
【公式サイト】山科倉庫ギャラリー「余白 -YOHAKU-」

オープニングエキシビション「In the Margin」

【会期】2026年9月5日(土)〜10月18日(日)
【開館時間】11:00〜18:00
【開館日】木曜〜日曜(月・火・水休館)
【入場料】無料
【参加作家】ヒロ杉山、伊藤桂司、張霆、抜水摩耶、山崎由紀子
【オープニングレセプション】2026年9月4日(金)17:00〜19:30

Top image: © 京都府教科図書販売株式会社
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