浜松の下水処理場でうなぎ養殖、廃熱活用で生産効率30倍を実現
下水処理場と聞いて、「おいしそう」と思う人はまずいないでしょう。けれど浜松市では今、汚泥を焼く過程で出る余った熱を使って、うなぎを育てるパイロット事業が成功を収めています。都市の裏方インフラが「食を生み出す場所」に変わる——その転換の中身が、想像以上に鮮烈でした。
「捨てる熱」で重油代がゼロになる仕組み

手がけたのは、浜松市の下水処理場を運営する浜松ウォーターシンフォニー(HWS)。フランス発の水インフラ大手ヴェオリア・ジャパンを代表企業とする官民連携の事業体です。
舞台は西遠浄化センター。ここでは下水汚泥を焼却する際に大量の低温排熱が発生しますが、これまでその多くは使い道がありませんでした。
HWSが着目したのは、うなぎの養殖には年間を通じて温水が必要だという点。一般的な養鰻場では重油を焚いてハウス内の水温を保ちますが、処理場の廃熱をそのまま温水に変えれば、燃料費を丸ごとカットできます。
さらに、使い終わった水は隣接する下水処理場でそのまま浄化できるため、高価なろ過・循環設備も不要。この「温水かけ流し式」という発想が、初期投資と維持費の両方を押し下げる構造をつくりました。
養殖密度6倍
生産効率は当初計画の30倍

2026年8月20日に開かれた成果報告会で示された数字は、控えめに言って驚きです。
通常の加温ハウス養殖では、1,000リットルの水槽に10〜30キログラムのうなぎを飼う密度(1〜3%)が一般的。ところが特許出願中の運転制御技術を導入した結果、養殖密度は18%にまで跳ね上がりました。当初計画の6倍です。
水の入れ替え頻度も劇的に減りました。当初は「1時間に1回、全量交換」を想定していたところ、水質管理の工夫で1日5回まで削減。限られた排熱で約5倍の規模の水槽を回せる計算になります。
これらを掛け合わせた結果、生産効率は当初計画比で約30倍。シラスウナギ(稚魚)を除くコストも、従来の閉鎖循環式タンク養殖と比べて15〜20%削減できる見通しが立ちました。
下水道が「食のインフラ」に変わる日
報告会には浜松市長や浜名湖養魚漁業協同組合の関係者も出席し、試食会では実際にこの施設で育ったうなぎが振る舞われました。
浜松市内の平均的な養鰻家1軒あたりの年間生産量は約85トン。HWSが実規模で目指すのは年間約90トンと、まさに「養鰻家1軒分」。2027年3月までに事業性調査を終え、実規模実証への移行を判断する計画です。
環境面のポテンシャルも見逃せません。廃熱の全量活用でA重油換算・年間約1,300立方メートル相当の化石燃料を代替し、CO2排出量は年間約3,500トン削減できる可能性があるといいます。
私たちが毎日使う水道の「出口」である下水処理場が、食卓のうなぎを育てる「入口」にもなる。この循環が当たり前になったとき、都市インフラの意味そのものが書き換わるのかもしれません。






