高山植物は、東アジアから北極圏へ? 北海道で見つかった680万年前の化石

北海道博物館とひがし大雪自然館の研究グループが、北海道・上士幌町の約680万年前の地層から、高山植物「チョウノスケソウ」の仲間の新種化石を発見しました。これが、同じ仲間の化石としては世界最古かつ世界最南方の記録。高山植物の進化の物語を根本から書き換えるかもしれない成果です。

約680万年前の北海道に
「北極圏の花」はもう咲いていた

チョウノスケソウ属は、白い可憐な花を咲かせる高山植物です。現在は北極圏や高山帯など、寒冷な場所にだけ生きています。

登山をする人なら、夏の稜線で見かけたことがあるかもしれません。

これまで、この植物の化石が見つかっていたのは北極圏の地層だけ。しかも約500万年前以降のものに限られていました。

ところが今回、北海道の「十勝幌加層」という約680万年前の地層から、同属の葉の化石が出てきた。時間軸で約200万年、地理的には北極圏からはるか南の中緯度地域。二重の意味で、従来の記録を大きく塗り替える発見です。

新種は発見地にちなんでヌカビラチョウノスケソウと命名されました。現生種とよく似た葉の形をしていながら、葉脈や表面の微細な毛に違いがあり、新種として認定されています。

進化の矢印は逆だった
東アジアから北極圏へ広がった可能性

高山植物はしばしば「氷河期の生き残り」と呼ばれます。かつて氷河期に平地まで広がっていた植物が、温暖化とともに高い山の上に「取り残された」という物語です。

この見方に従えば、チョウノスケソウの仲間も北極圏で生まれ、氷河期に南へ広がったことになります。

しかし今回の発見は、別のシナリオを浮かび上がらせました。約680万年前——氷河期よりずっと前の時代に、すでに東アジアにこの植物がいたとすれば、むしろ東アジアから北極圏へと生息域を広げた可能性がある。進化の矢印が、逆を向くかもしれないのです。

研究成果は2026年7月、日本古生物学会の国際学術誌『Paleontological Research』に掲載されました。

地方博物館の学芸員2人が
世界の進化史を静かに更新した

もうひとつ心に残るのは、この発見の担い手です。

北海道博物館の成田敦史学芸主査と、ひがし大雪自然館の乙幡康之学芸員。大学の大型研究室ではなく、地域に根ざした博物館の学芸員2人による成果が、国際誌で世界の進化史を更新しました。

地方博物館は「展示する場所」だと思われがちですが、実は一次研究の最前線でもある。その事実を、この論文が静かに証明しています。

今年の夏山で、もしチョウノスケソウの白い花を見かけたら、少しだけ想像してみてください。その一輪の祖先は、680万年前の北海道にもう咲いていたかもしれない。「消えゆく存在」ではなく、途方もない時間を旅してきた植物なのだと思うと、足元の景色がほんの少し変わる気がします。

ヌカビラチョウノスケソウ ホロタイプ標本展示

【期間】2026年8月7日(金)〜2026年10月8日(木)
【会場】北海道博物館 総合展示室1階

【論文掲載情報】

掲載誌:Paleontological Research(日本古生物学会の英文国際学術誌),vol.30
論文タイトル:The earliest and the southernmost leaf fossils of Dryas from the Upper Miocene Tokachihoroka Formation, eastern central Hokkaido, Japan
(北海道中央東部の上部中新統十勝幌加層から見つかった最古かつ最南端のチョウノスケソウ属の葉化石)
著者:成田 敦史(北海道博物館)、乙幡 康之(ひがし大雪自然館)

Top image: © 北海道
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