祈りの輪に「大麻」を。斎宮で始まった、古くて新しい試み

三重県明和町の明和観光商社が参画する「天津菅麻(あまつすがそ)プロジェクト」が、ちょっと驚くような試みを発表しました。全国の神社でおなじみの「茅の輪(ちのわ)」を、斎宮の史跡内で育てた国産大麻の茎だけで作り上げたというのです。

天津菅麻(あまつすがそ)プロジェクトのロゴマーク。麻の葉文様を三つ重ねた紫のグラデーションデザイン
© 一般社団法人明和観光商社

じつは一種じゃなかった
茅の輪の素材

神社の境内で目にする、あの大きな草の輪。「茅の輪くぐり」と呼ばれる夏越の祓(なごしのはらえ)の行事は、半年分の穢れを落とす伝統的な神事として、全国各地で行われています。

でも、あの輪が何の植物でできているか、考えたことはあるでしょうか。

一般的にはチガヤやススキなど、イネ科の植物をまとめた「茅(かや)」が使われます。つまり、茅といっても、使われる植物はひとつではないんです。

そこに今回、まったく新しい選択肢が加わりました。伊勢神宮とゆかりの深い聖地・斎宮で栽培された、国産の大麻草の茎です。

活かされていなかった茎が
「祈りの装置」に変わる逆転

ブルーシートの上で大麻の茎の束を縄で束ね、茅の輪の素材を手作業で組み上げる作業者たち
© 一般社団法人明和観光商社

大麻と聞くと身構える方もいるかもしれません。けれど日本では弥生時代から、大麻草の繊維は神事に欠かせない素材でした。

神社でお祓いのときに振られる「大麻(おおぬさ)」という道具の名前にも、その名残がはっきり残っています。

今回注目されたのは、繊維用には適さず、翌年の種を取るために残される外周部の株。その茎は、これまで十分に活用されてきませんでした。

いわば「活用されてこなかった資源」です。それを、清めの力があると古来信じられてきた素材として茅の輪に仕立て直す。廃棄物が祈りの装置に変わる、という発想の転換がここにあります。

日本大学の研究員・赤星栄志氏(博士・環境科学)も意見書の中で、国産大麻を茅の輪に用いる取り組みは「唯一」と評価しています。

唱え詞にはすでに「麻の葉」があった

完成した大麻茎の茅の輪を畑の前で掲げ、笑顔で並ぶ天津菅麻プロジェクトの参加メンバー9名
© 一般社団法人明和観光商社

個人的にもっとも鳥肌が立ったのは、茅の輪くぐりの作法そのものに「麻」が織り込まれていた事実です。

茅の輪は古来の作法に則って3回くぐるのですが、2回目に唱える和歌にはこうあります。「思ふこと みな尽きねとて 麻の葉を 切りに切りても 祓ひつるかな」。

祈りの言葉の中には、すでに「麻の葉」が登場していた。そう考えると、大麻で茅の輪を作る今回の試みも、まったく無関係な素材を持ち込んだというより、古くからある「麻と祈り」の文脈を、思いがけない形でつなぎ直したようにも見えてきます。

現代では「大麻」と聞くと、まず規制や法律を思い浮かべる人も少なくないでしょう。でもその何百年も前から、日本人は麻に清めの力を見出し、祈りの中に編み込んでいた。そう思うと、私たちが「当たり前」だと思っている常識の輪郭が、少しだけ揺らぎませんか。

プロジェクトは来年以降、地域の神社への茅の輪の提供も視野に入れているそうです。活かされていなかったものが祈りになり、祈りが地域を巡る。静かだけれど、とても美しい循環が、斎宮から始まっています。

Top image: © 一般社団法人明和観光商社
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