「花粉が飛ばない森」はつくれる? 無花粉スギの遺伝子に新発見
岡山大学など6つの研究機関による共同研究グループが、花粉をほとんど作らない「無花粉スギ」の原因遺伝子の最有力候補を突き止めたと発表しました。毎年春になると、マスクと目薬を手放せない人にとって、これは願ってもないニュースかもしれません。
飛んできた花粉を「しのぐ」から
「そもそも飛ばさない」へ
スギ花粉症に悩む人は、日本で数千万人にのぼるとされています。
対策といえば、抗ヒスタミン薬を飲む、マスクをする、空気清浄機を回す——どれも「飛んできた花粉をどうしのぐか」という話です。
でも、そもそも花粉が飛ばなかったら? 今回の研究は、まさにその「元栓」に手をかけるものでした。
研究チームが注目したのはMS2タイプと呼ばれる無花粉スギ。花粉をほとんど作らない性質を持つことは以前から知られていましたが、なぜ作らないのか、その遺伝的な仕組みはずっと謎のままだったのです。
花粉の有無を分けていたのは
塩基たった1文字の変異だった
研究グループは、人工的に交配させたスギの家系を使って遺伝解析を進め、原因となる遺伝子の居場所をスギの第5染色体上に絞り込みました。
さらに、スギのゲノム(全遺伝情報)の参照配列と照らし合わせながら、雄花で働く遺伝子やDNA配列の違いを丹念に調べた結果、ある酵素をつくる遺伝子にたどり着きます。
驚くのは、その違いの小ささです。花粉を「出す」スギと「出さない」スギを分けていたのは、DNAを構成する文字(塩基)のうち、たった1文字の違いでした。
この発見には、もうひとつ大きな実用的意味があります。研究チームはこの1文字の変異を検出するDNAマーカーを開発しました。
これまで無花粉スギかどうかを見分けるには、苗木が成長して雄花を咲かせるまで何年も待つ必要がありました。それが今後は、幼い苗の段階でDNA検査によって判定できるようになるのです。
「来春すぐ楽になる」わけではない
それでも森の植え替えは始まる
もちろん、この発見で来年の春がすぐ楽になるわけではありません。
日本の森林に植えられたスギが無花粉の品種に置き換わるには、苗木の生産から植林、そして木が育つまで、数十年という時間がかかります。
それでも、今回の成果が持つ意味は小さくないはずです。経験と勘に頼っていた無花粉スギの選抜が、ゲノム科学によって確実かつ効率的になる。しかもゲノム編集のような人為的な操作ではなく、自然界にもともと存在していた変異の発見である点も見逃せません。
薬で抑える、マスクで防ぐ。私たちはずっと「花粉が来る前提」で暮らしてきました。
でも、森の遺伝子がほんの1文字変わるだけで、花粉はそもそも飛ばなくなる。その事実を知ったとき、毎春の「仕方ない」が、少しだけ「いつか変わるかもしれない」に変わる気がしませんか。






