Z世代がいま「ハープ」に夢中。スマホ時代に広がるアナログ回帰

子どもの頃に習っていたピアノやバイオリン。受験や部活を理由にやめて、そのまま大人になった——そんな経験に覚えがある人は少なくないはずです。

いま欧米のZ世代のあいだで、ハープやトランペットといった伝統的な楽器を「大人になってから始める」動きが広がっています。しかもその動機は、音楽がうまくなりたいから、ではないようなのです。

スマホを置いて、弦に触れたい
——「触覚」への飢え

英メディア「Dazed Digital」が2026年7月に報じた記事によると、TikTokでは「自分の意志でバイオリンを学び直す」動画や、「元恋人への未練を断ち切るためにトランペットを始めた」という投稿が次々と話題になっています。

楽器を演奏する10代の約50%が17歳までにレッスンをやめるという調査結果がある一方で、Z世代は20代前半で楽器を再開したり、まったく新しい楽器に挑戦したりする傾向が強まっているといいます。

なかでも象徴的なのがハープの人気です。ニューヨークのハープ奏者パーカー・ラムジーは、コロナ禍のロックダウン中に楽器ディーラーから「ハープの在庫が足りない」と聞いたことで、この変化に気づいたと語っています。

彼はその背景をこう表現しました。「人々はオンラインでは得られない本物の体験に飢えている。ハープには弓もキーもマウスピースもない。自分の肌が弦に直接触れる——触覚的な即時性がある」。

無限にスクロールする指が、今度は弦を弾きたがっている。そう言い換えてもいいかもしれません。

「没頭できる自分」が
ステータスになる時代

このトレンドには、もうひとつの層があります。それは「長く集中できること」自体が、ある種の文化的なステータスになりつつあるという現象です。

2023年に発表された研究では、注意を持続する時間が短くなるほど、知覚されるストレスレベルや心拍数が上がる傾向が示されています。裏を返せば、何かにじっくり没頭できる状態は、心身の健康にとっても価値がある。

SNS上では、古典文学を読む投稿や3時間の映画のレビューと並んで、楽器演奏の動画が「自分はスクロールに支配されていない」というシグナルとして機能しているのだそうです。

森の中で長い髪を揺らしながらハープを弾く姿は、ファンタジー映画のワンシーンのようでもあり、SNS映えする「神秘的な美学」としても広がっています。

日本の「大人の習い事」と
つながる感覚

日本でも、大人になってから書道や茶道、陶芸を始める人が増えています。デジタルデトックスやマインドフルネスへの関心とも重なるこの流れは、Z世代の楽器回帰と根っこでつながっているのではないでしょうか。

「うまくなること」が目的ではなく、「自分の手で何かに触れ、没頭する時間を取り戻すこと」が目的になっている。楽器演奏という行為が、子ども時代の義務から、大人が自分の意志で選ぶ「注意力の回復装置」へと意味を変えつつあるのです。

押し寄せる通知をいったん止めて、弦に指を置いてみる。その瞬間だけは、スクリーンの向こう側ではなく、自分の指先に世界がある——そんな感覚を、私たちも少し羨ましく思いませんか。

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TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。