Z世代が自作PCに惹かれる理由と「デジタル疲れ」の正体

米Newsweekが報じた、Z世代による「サイバーデッキ」自作ムーブメント。そこには単なるホビーを超えた、深い動機が見え隠れしています。

「サイバーデッキ」とは何か

サイバーデッキとは、Raspberry Pi(ラズベリーパイ)などの手のひらサイズのシングルボードコンピュータに、小型ディスプレイやキーボード、自作の筐体を組み合わせて作る完全カスタムのポータブルPCです。Raspberry Piとは、もともと教育用に開発された安価な小型コンピュータで、世界中のメイカー(ものづくり愛好家)に愛用されています。

その名前の由来は、ウィリアム・ギブスンのサイバーパンク小説『ニューロマンサー』(1984年)に登場するハッキング端末。レトロフューチャーな美学と実用的なコンピューティング機能を融合させたこのデバイスは、中古パーツやリパーパス(再利用)素材から組み立てられるため、一台として同じものが存在しません。外観も機能も、すべてが制作者の個性によって決まります。

Newsweekの記事で取材を受けたTikTokクリエイターのubeboobey氏は、サイバーデッキを「所有者にとってユニークなもの」であり「自分自身の目的のために」作られるものだと語っています。大量生産品への抵抗と、創造性を最優先する姿勢。その言葉には、既製品のノートPCを買って使うだけの関係とは根本的に異なる、テクノロジーとの向き合い方が表れているのではないでしょうか。

用途は無限、精神はひとつ

TikTok上で共有されているサイバーデッキの用途は驚くほど多彩です。1980〜90年代のレトロゲームを楽しむエミュレーター機として使う人もいれば、ウェブサイトやデータをオフラインでホストするプライベートサーバーとして活用する人も。コーディングの練習用端末、書籍や音楽をオフラインで持ち歩く「オフグリッド」サバイバルツール、さらにはサイバーセキュリティ企業Eclypsiumのブログによれば、メインPCを危険にさらさずにセキュリティテストを行うポータブルなハッキング・テスト用プラットフォームとしても機能するとのこと。

愛好家サイトCyberdeck Cafeは、サイバーデッキをユーザーが「すべてのパーツを完全にコントロール」できるシステムとして紹介しています。既製のノートPCとは異なるオープンなシステムだからこそ、コンポーネントの交換や改造、再設計が自由自在。利便性よりもカスタマイズ性を重視するこの姿勢が、制約なくハードウェアとソフトウェアを実験したい若い世代の心を掴んでいるようです。

しかしNewsweekの記事は、現在の関心の高まりが実用性よりも「創造性」に根ざしていると指摘しています。サイバーデッキは自己表現の一形態であり、制作者の人格やニーズ、手持ちの素材がそのまま形になったデバイスなのだと。

「デジタル疲れ」の第三の道

このムーブメントの背景には、Z世代に広がる「デジタル疲れ」の潮流があると考えられます。近年、若い世代の間ではスマートフォンの機能をあえて制限した「ダムフォン」への回帰や、デジタルデトックスへの関心が高まっています。Fortuneの報道によれば、Z世代が牽引するアナログ経済は2035年までに50億ドル規模に成長するとの予測もあるほどです。

一方で、テクノロジーを完全に手放すことは現実的ではありません。Harvard Business Reviewが2026年1月に報じた米国の18〜28歳約2,500人を対象とした調査では、Z世代はAIを実用的に活用しつつも「人を怠惰にし、知性を低下させる」と懸念していることが明らかになりました。手を動かして学ぶ機会が失われることへの不安——その感覚は、サイバーデッキの「作りながら学ぶ」精神と見事に呼応しています。

つまりサイバーデッキは、デジタルを全否定するアナログ回帰でもなく、ビッグテックのエコシステムに身を委ねる従来型の消費でもない、「第三の道」を示しているのかもしれません。テクノロジーそのものを拒絶するのではなく、テクノロジーとの関係性を自分の手で再設計するという選択肢です。

商業化への抵抗が映すもの

Newsweekの記事で興味深いのは、サイバーデッキの商業化をめぐる議論にも触れている点です。一部のクリエイターは、大量販売はホビーの精神を損なうと主張し、実験と個人の職人技を利益より優先すべきだと訴えています。TikTokユーザーからは「モジュラーテックこそ求めていたもの。ビッグテックが作り続けるものではない」という声も上がっているとのこと。

この姿勢は、オープンソース運動や「修理する権利(Right to Repair)」の議論とも通底するものがあります。1970年代、スティーブ・ウォズニアックやスティーブ・ジョブズが参加した「ホームブリューコンピュータクラブ」では、コンピュータを自分たちの手に取り戻そうという熱気が渦巻いていました。半世紀を経て、Z世代が再びその精神に立ち返っているのは、偶然ではないように思えます。

サイバーデッキは、日常のデバイスを置き換えるものではありません。スペックで既製品に勝てるわけでもない。それでも、自分の手で一からコンピュータを組み上げ、自分だけの目的のために最適化するという行為には、「パーソナルコンピュータ」という言葉の原義——「個人のためのコンピュータ」——を取り戻す力が宿っています。効率や利便性では測れない、その人だけの価値。テクノロジーに対するコントロールを自分の手に取り戻すこと。それこそが、Z世代がサイバーデッキに見出している本当の魅力なのではないでしょうか。

Top image: © iStock.com / Anchiy
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。