Z世代が飲み屋に求める「楽しませて」の正体
BBCが報じた英国パブ業界の最新事情が、なかなか衝撃的です。かつて金曜の夜ともなれば肩がぶつかるほど賑わっていたスコットランドのパブが、いま静まり返っている──。その背景には、Z世代の社交そのものの変容がありました。
「混んでいると帰る」若者たち
スコットランド・セント・アンドリュースで家族経営のパブ「The Criterion」を営むSteve Latto氏は、BBCの取材に対し「混雑を見ると客が帰ってしまう」と語っています。2026年はパブ業界にとって最悪の年になるだろう、と。
価格上昇や人件費の高騰といった経営面の圧迫に加え、同氏が分水嶺として挙げるのがコロナ禍です。ちょうどその時期に成人を迎えたZ世代は、スクリーンタイムの増加によってアイコンタクトや雑談といった対面コミュニケーションへの耐性が低くなった、と指摘します。
この見方は、当事者であるZ世代自身の言葉とも重なります。セント・アンドリュース大学の大学院生Edward Males氏(23歳)は、コロナによって自分たちの世代の「社会的スキルが奪われた」と感じているそう。パブで一人になるとスマホに逃避してしまい、見知らぬ人との会話を避けてしまうと率直に打ち明けています。
「撮られる恐怖」という新しい壁
興味深いのは、パブ離れの理由が単なる「飲酒離れ」や「出不精」では片づけられない点です。
Males氏はさらに踏み込んで、TikTokやInstagramで見知らぬ人に撮影・公開されるリスクが「不安定な不安感」を生んでいると述べています。「間違ったことを言って晒されたら」「ミームにされたら」──そんな恐怖が常に頭をよぎるというのです。
27歳のStephanie English氏も、他人のInstagramストーリーの背景に映り込みたくない、酔った勢いで自分が何を投稿するかわからないという不安を口にしています。「みんな慢性的にオンライン」だと。
これは非常に示唆的ではないでしょうか。かつて「にぎわい」はパブの魅力そのものでした。しかしSNS監視社会を生きるZ世代にとって、人が多い空間はむしろ「撮られるリスクが高い場所」に映る。空間の価値基準が、活気から心理的安全性へと静かに反転しているように見えます。
「楽しませて」が意味すること
スコットランドで20店舗を展開するSignatureグループのLouise Maclean氏は、Z世代の行動原理を端的にこう表現しています。「Entertain me!(楽しませて!)」。
SNSで友人とは常時つながっているため、パブに「会話の場」としての機能を求めていない。だからこそ、クイズナイトやライブ音楽、リース作りのワークショップなど、体験型のコンテンツがなければ来店動機が成立しないのだとか。22歳のKeira McCue氏も「パブには追加の何かが必要」と語り、さらにカクテル1杯11〜12ポンド(約2,200〜2,400円)という価格が、住宅貯蓄や車のローンを抱える世代には重い負担だと指摘しています。
近年、世界的に若い世代が「モノより体験」を重視する傾向は広く報告されています。しかし英国パブの事例が浮き彫りにするのは、体験志向の裏側にある切実な事情です。対人スキルへの不安、SNSでの晒しリスク、そして生活費の逼迫。この三重の圧力が、「ただ飲む場所」としてのパブの存在意義を根底から揺さぶっています。
日本の飲食業界への問いかけ
日本でも若年層の「居酒屋離れ」はしばしば話題になります。飲酒量の減少やノンアルコール市場の拡大といったトレンドは、英国の状況と驚くほど重なるものがあるでしょう。
もしかすると、問われているのは「何を飲むか」ではなく「なぜそこに行くのか」という、もっと根源的な問いなのかもしれません。パブや居酒屋が長年担ってきた「サードプレイス」──家でも職場でもない第三の居場所──の意味そのものが、世代をまたいで書き換えられようとしている。
「ノーフォンゾーン」を設けるカフェや、没入型の体験を売りにするバーが少しずつ注目を集めているのも、この文脈で捉えると腑に落ちます。飲食空間の未来は、「撮られない安心感」と「計画された体験価値」の交差点にあるのかもしれません。






