Z世代はなぜ、「煉獄」と「五条」に理想の上司像を求めるのか?
Z世代が“理想の上司”に求める基準は、すでに従来の枠組みから大きく逸脱している。彼らが選んだのは現実の管理職ではなく、『鬼滅の刃』の煉獄杏寿郎や『呪術廻戦』の五条悟といったアニメキャラクターだった。
一見すると奇異だが、調査データを読むとその選択には明確なロジックがある。Z世代は、上司に“肩書き”よりも“人として信頼できる生き方”を求めるいっぽう、現実の職場では「失敗を責めない環境」という心理的安全性を最重視する。この理想と現実のズレが示す、現代のマネジメントに必要な条件を簡潔に明らかにしてみたい。
「煉獄」と「五条」
対極のキャラクターに投影される
理想の理由

株式会社イード「ミツカル学び」の調査で、Z世代が選んだ理想の上司キャラクターは1位が煉獄杏寿郎(31.6%)、2位が五条悟(23.1%)。二人のスタイルは正反対である。
煉獄は情熱で周囲を鼓舞するリーダー型、五条は冷静で合理的な判断を下す戦略型。一見すると嗜好は分散しているように見える。しかし、選定理由の上位はどちらも共通しており、「人として付いていきたくなる魅力」(28.4%)、「リーダーシップ・カリスマ性」(27.3%)という“人格的信頼”に集約される。
Z世代は、指示の強弱や指導スタイルそのものではなく、その人物が示す価値観や生き方を信頼できるかを重視しているようだ。


現実の職場で求めるのは
「失敗を責めない環境」
理想では“カリスマ性”が重視される一方で、現実の職場で求める条件は異なる。
調査では、「失敗を責めず、次に活かす姿勢」(23.3%)、「こまめなフィードバック」(22.1%)がもっとも多く、Z世代は日常的なコミュニケーションにおいて“安全に成長できる環境”を優先している。
さらに、別調査では「働きたくない上司」として、高圧的、感情的といった“人格面の欠陥”が主要因として挙げられた。理想に「人として信頼できる存在」を求めるからこそ、現実の場面でそれと逆方向の態度に敏感に反応する構造がある。

日本の組織文化が心理的安全性を求めさせる
世代が「失敗を責めない姿勢」を強く求める背景には、日本型組織の特性がある。経済産業省調査では、日本企業の68.9%で“失敗は個人の責任として追及される”傾向が強いとされ、米独の30%台と対照的。
この環境では、若手ほど「失敗=評価低下」という恐怖心が強くなる。そのため、彼らは“安定した土台”としての心理的安全性を重視するようだ。Z世代に特徴的とされる「仕事と私生活の両立」嗜好も、安定した職場環境が前提となるため、要求は理にかなっている。
心理的安全性は“甘さ”ではなく
成果に直結する条件
「失敗を責めない環境」への要請は、若者の甘えではない。Googleが行った大規模調査では、心理的安全性の高いチームは、離職率が59%低下、“効果的に働く”と評価される確率が約2倍、働きがいスコアが25%以上高いという結果が出ている。つまり、Z世代が現実の上司に求める条件は、組織の生産性向上とも整合している。カリスマ的な上司像も、心理的安全性を欠いた職場では機能しない。
必要なのは“カリスマ”ではなく
それを支える土台
Z世代がアニメキャラに理想を重ねる背景には、「人として信頼できる存在への希求」がある。いっぽう、現実では「安心して挑戦できる環境」を求める傾向。これは矛盾ではなく、二つは階層的に接続されている。
マーケティング文脈では、Marketing Brew が報じたように、ブランドが“アスリート像”を拡張し、生活者の価値観に合わせて自己定義を変えつつある。同じ構造が組織にも当てはまる。個人の魅力に依存したマネジメントではなく、多様な価値観を受容する環境設計こそが、次世代のチームを成立させる前提条件ということなのだろう。






