Z世代の間で「音楽断ち」がトレンドに?意図的に音楽を節約する真意とは
かつては熱心な音楽ファンだった若者が、ある日突然、音楽を聴くのをやめてしまう。そんな不思議な現象が、今静かに広がりを見せているようだ。
音楽は、多くの若者にとって自己表現であり、他者との繋がりを感じるための重要なツールのはず。ではなぜ、彼らは自ら音楽から距離を置いているのだろう。『DAZED』の紹介を見てみよう。
「BGMとしての音楽」と決別
その理由は、音楽そのものが嫌いになったからではないらしい。
問題は、音楽との関わり方。27歳のShazさんは、かつて音楽を現実逃避のための手段として使っていたと語る。しかし、Spotifyで曲を探す時間に疲れ果て、「少し休憩してみよう」と決意。音楽を断った結果、「脳にかかっていた霧が晴れたようだった」という。
26歳のIsraさんも、以前は年間80万分も音楽を聴くほどのヘビーリスナーだったが、その依存状態に気づき、距離を置くことに。その結果、自分の考えや決断に自信が持てるようになったと感じているそうだ。
二人にとって、音楽を断つことは、受動的でマインドレスな消費からの脱却。常にイヤホンで耳を塞ぎ、アルゴリズムに任せて音楽を「BGM」として垂れ流す。そんな消費習慣をやめ、思考の明晰さを取り戻すための行為のようだ。
Z世代に広がる「節制」というトレンド
この「音楽断ち」は、より大きなムーブメントの一部と見ることができる。それは、Z世代に広がる「節制」というトレンド。
禁酒や禁欲、ソーシャルメディアデトックス、多機能ではない「ダムフォン(ガラケー)」への切り替え。過剰な消費の時代が終わりを告げ、若者たちは今、自分の時間やお金、そして主体性を自らの手に取り戻そうとしているのではないだろうか。音楽との関係見直しも、その新たなフロンティアなのかもしれない。
この動きを、一部では保守主義への回帰と結びつける見方もある。しかし、それは必ずしも過去への憧憬ではない。アルゴリズムに支配された生活への抵抗であり、自分たちの未来を自分たちで選びたいという、主体性の回復への渇望とも呼べるのではないだろうか。
“静寂”にも価値を見出している
もちろん、彼女たちはオーディオコンテンツを完全に断ったわけではない。Israさんはオーディオブックを、Shazさんはポッドキャストやイスラム教の講義を聴くようになったという。しかし、そこには明確な「意図」がある。目的は気晴らしではなく、主体的な傾聴だ。
結局のところ、彼らが求めているのは、自分の時間と消費を自分でコントロールする力。絶え間ないノイズと情報のなかで、音楽から一歩引くことは、芸術そのものを否定するのではなく、それにまつわる受動的な習慣に抵抗すること。
それは、静寂の中にも意味があることを再発見し、意図を持って聴くという行為を学び直すための、重要な一歩なのだろう。