「生分解性」でも海では残る?化粧品の海洋分解をめぐる最新研究

「生分解性」と書かれた化粧品を選べば、環境には優しいはず──そう思っていませんか。化粧品OEM/ODMメーカーのサティス製薬と群馬大学が2026年7月20日に発表した共同研究の成果が、その思い込みに静かな一石を投じています。

活性汚泥のない海に泡は流れていく

晴天の砂浜で波打ち際に立ちポリタンクを手に海水を採取する研究スタッフたち。沖にはテトラポッドの消波ブロックが並ぶ
© 株式会社サティス製薬

今回の研究が突きつけた事実は、とてもシンプルです。「生分解性がある」と評価されている化粧品成分の多くは、下水処理場の中で分解されることを前提に試験されている、ということ。

下水処理場には「活性汚泥」と呼ばれる微生物の塊が大量に存在していて、有機物を食べて分解してくれます。ところが海の中はどうかというと、微生物の数が圧倒的に少ない。言われてみれば当たり前なのですが、この違いが「生分解性」の意味を根本から変えてしまいます。

キャンプ場の簡易シャワー、海水浴場の屋外シャワー、下水道が整備されていない離島や地方の集落。日本で暮らしていても、洗い流した泡が下水処理場を経由せず、そのまま川や海へ流れていく場面は意外と多いのです。そうした場所では、パッケージに「生分解性」と書かれていても、実際には海で分解されないリスクがある。サティス製薬の開発者・森下建氏は、旅先の海辺で屋外シャワーの泡がそのまま海へ流れ込む光景を目にしたことが、この研究の原点だったと語っています。

阿字ヶ浦の海水で7年かけた分解試験

夏の阿字ヶ浦海水浴場の全景。広い砂浜の奥に防波堤と緑の丘陵が見え、海水浴客やボートが点在する
© 株式会社サティス製薬

サティス製薬は2019年から数千種類の化粧品原料を独自にスクリーニングし、2022年に群馬大学・食健康科学教育研究センターの粕谷健一教授との共同研究を本格始動させました。

試験に使ったのは、茨城県ひたちなか市・阿字ヶ浦海水浴場から実際に採取した海水。海水中の生分解性を測るための国際的な試験法「OECDテストガイドライン306」に準拠し、微生物が極めて少ない過酷な条件下で28日間の分解度を測定しました。

その結果、特定のアミノ酸系界面活性剤などで「BOD生分解度60%以上」を達成。この60%という数字、一見すると4割が残っているように聞こえますが、残りの約40%は微生物自身の細胞などに変換されるため、元の化学物質としてはほぼ完全に自然界へ還ったことを意味する高い水準です。さらに、水中に溶け残る有機物の残留割合が30%未満であることも確認し、残留リスクを厳密に排除しています。

そしてもうひとつ、研究チームが乗り越えなければならなかった壁があります。「微生物に分解されやすい」ことと「製品として腐らない」ことは、本質的に矛盾するという問題です。防腐剤を使わず、特定の保湿成分と洗浄成分を最適な比率で組み合わせることで、棚の上では安定し、海に流れたら速やかに分解される処方を実現しました。この技術は特許出願済みとのこと。

足元の泡はどこへ流れるか

粕谷教授は、淡水や陸上で分解される化粧品成分でも海洋では分解しにくい場合があることを本研究で確認したと述べています。つまり「生分解性」というラベルは、それだけでは不十分な情報かもしれないのです。

今後は蓄積された実環境試験データをもとに予測モデルを構築し、洗顔料やボディソープなど「洗い流して使う製品」としての製品化を目指すといいます。

この夏、海やキャンプ場でシャワーを浴びるとき、足元の泡がどこへ流れていくのか、ほんの一瞬だけ想像してみてください。「環境に良い」の中身を問い直すことは、消費の解像度をひとつ上げることなのかもしれません。

Top image: © 株式会社サティス製薬
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