7,000万年前の化石が語る。深海へ消えたクモヒトデ「1億4,000万年の空白」

北九州市立いのちのたび博物館が発表した、ある化石のニュースに目が止まりました。和歌山県の山中、約7,000万年前の地層から見つかったクモヒトデの化石が、新属新種として学術誌『Paleontological Research』に掲載されたというのです。

クモヒトデと聞いてもピンとこない方が多いかもしれません。でも、この小さな化石が埋めた「空白」のスケールを知ると、ちょっと背筋がぞくっとします。

浅瀬の住人が深海へ移った時期だけ
1億4,000万年分の記録がなかった

CTスキャンで岩石内部から復元されたクモヒトデ「エナコスファルマ・ナガシマイ」の3Dモデル。5本の腕と中央の盤が立体的に再現されている(スケールバー5mm)
© 福岡県北九州市(北九州市役所)

クモヒトデは、ヒトデやウニ、ナマコの仲間にあたる海の生き物です。今回の化石が属する「アヤマチクモヒトデ科」というグループは、現在では深海の主要メンバーとして知られています。

ところが、約1億8,000万年前〜約1億6,000万年前(ジュラ紀)の化石は、浅い海で堆積した地層から見つかっていました。つまり、かつては浅瀬で暮らしていた。

一方、約2,000万年前(新生代)の化石は深海の地層から出ています。では、いつ深海へ移ったのか?

その間、実に約1億4,000万年ものあいだ、このグループの化石記録はまったくの空白でした。人類の歴史がせいぜい数百万年であることを思えば、途方もない時間です。

今回、和歌山で見つかった約7,000万年前の化石は、その空白のど真ん中に打たれた「ピン」のような存在。しかも発見された地層は比較的深い海で堆積したと考えられており、白亜紀にはすでに深海生活を始めていたことを示唆しています。

岩を壊さず、進化の「中間の姿」を取り出す

CTデータをもとに3Dプリンターで作製されたクモヒトデ化石の拡大レプリカ。腕や盤の細部が肉眼で確認できるサイズに再現されている
© 福岡県北九州市(北九州市役所)

化石は岩石の中に埋もれていて、外からは見えない部分も多くあります。研究チームはCTスキャンを使い、岩を壊さずに内部の形態を立体的に観察することに成功しました。

さらに、そのデータをもとに3Dプリンターで拡大レプリカも作製。肉眼では捉えきれない細部まで「触れる」形にしたのです。

興味深いのは、この化石がジュラ紀の浅海の仲間と、現代の深海の仲間の「中間的な特徴」を持っていたこと。進化の途上にある姿が、7,000万年の時を超えて岩の中から現れたわけです。

市民が見つけた石が、進化史の空白を埋めた

新属新種の学名は「エナコスファルマ・ナガシマイ」。種小名は、この化石を発見した故・永島二人(つぎと)氏に捧げられたものです。市民の発見が、国際共同研究を経て進化史の空白を埋める──そんな物語も、この化石には刻まれています。

深海は近年、水族館や映像コンテンツを通じて私たちにとって身近な好奇心の対象になりました。でも、その深海の生態系が「いつ、どうやってできたのか」を問うことは、あまりなかったのではないでしょうか。

浅い海から深い海へ。環境が変わるとき、生き物はどう適応するのか。それは、変化の時代を生きる私たちにとっても、どこか他人事ではない問いかもしれません。

新属新種クモヒトデ化石 特別展示

【会場】北九州市立いのちのたび博物館 エントランス(無料エリア)
【期間】2026年7月31日(金)〜9月23日(水・祝)
【開館時間】9:00〜17:00(入館は16:30まで)
【展示内容】世界唯一の実物標本、CTデータから3Dプリンターで作製した拡大レプリカ、比較用の現生クモヒトデ液浸標本、掲載論文

Top image: © 福岡県北九州市(北九州市役所)
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