美味い「メスうなぎ」を狙い撃つ、劇変する養殖環境に注目!

愛知県高浜市で三代続く養鰻家「ヤマヤ養魚」が、2026年7月22日より国内でも極めて珍しい「新子メスうなぎ」の初出荷を開始すると発表。土用の丑の日を目前に届けられるこの一尾には、業界の常識を静かに覆す物語が詰まっています。

メスが旨いのに育てられない
という、ジレンマへの突破口

うなぎは稚魚の段階では性別が決まっていません。ところが養殖環境では、過密飼育や水温などのストレスが影響し、9割以上がオスに育つとされています。

いっぽうで、メスうなぎはオスに比べて身に厚みがあり、脂のりが良く、やわらかな食感を持つといわれてきました。つまり「味が良いのはメスだと分かっているのに、養殖ではほとんど作れない」という構造的な矛盾が、長年この業界に横たわっていたわけです。

正直なところ、筆者はうなぎに「オス・メス」で味の差があること自体を知りませんでした。次に鰻重を前にしたとき、「これはどっちだろう」と考えてしまいそうです。

脱線してしまいましたが、この“壁”を突破したのが、愛知県水産試験場などが確立した技術でした。飼料に大豆イソフラボンを配合することで、ウナギの性分化をメス方向へ誘導できるというものです。

大豆イソフラボンは女性ホルモンに似た作用を持つ植物性成分として知られていますが、それがうなぎの養殖を変えるとは、なんとも意外な組み合わせではないでしょうか。

ヤマヤ養魚はこの研究成果に、独自の飼育哲学を掛け合わせました。矢作川水系の清流と地下100メートルから汲み上げる地下水を用途に応じて使い分け、養殖池の土壌には貝化石を混入。さらに遮光カーテンと100%遮光ビニールで光環境を徹底管理し、うなぎへのストレスを極力抑えるというこだわりよう。

「三代にわたり受け継いできた養鰻技術と、新しい研究成果を融合させることで、これまでにない品質のメスうなぎを育てることができた」とは、同社代表のコメント。

「天然超え」という逆転劇も!?

養殖は「天然の代替品」という見方は、いまだ根強いかもしれません。けれど今回の事例は、むしろ養殖だからこそ実現できた品質設計の話です。天然では性別を選べませんが、科学と職人技の融合によって「メスだけを安定的に届ける」という、天然にはできないことが可能になったわけですから。

「安く大量に作る」から、「狙った品質を設計する」へと静かに書き換わりつつある━━。こう考えると、養殖という言葉がもつ意味そのものが変わってくるような気がしませんか?

今年の土用の丑の日(7月26日)、うなぎを頬張りながら、その一尾の「性別」に思いを馳せてみるのも悪くないかも。

Top image: © 有限会社ヤマヤ養魚
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。