生活の場がレストラン、という環境で育った僕が思うこと

親が飲食店を経営していたり、料理人の子供だったりすると、小さい頃からおいしいものを食べて育ってきたんだろうな、なんて安易に想像してしまいますが、実のところはどうなのでしょう。

Food52」において、これまであらゆるレシピを寄稿してきたValerio Farrisが、まさにその環境。レストランを経営する両親の元で育った彼、生活の場が飲食店という幼少期の実体験から学んだ人生観がおもしろい!飲食店におけるルールなれど、どんな仕事にも通づる大切にすべきことがあります。

生活の場がレストラン、という人生

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「a blessing and a curse(幸福でもあり、災いでもある)」という慣用句を聞くと、僕の頭に思い浮かぶのは、親が経営していたレストランです。飲食店で育つことは言わずもがな、とてもユニークな経験。ロマンチックにも聞こえるし、多くの伝説を生む。とにかくいろんな人から質問攻めを受けるんですよね。

たしかに、そこで育ったことはラッキーだし、とても美しい場所だったとは思うけど、“ケーキをタダでもらえる”(たしかにただでたくさんのケーキを食べましたが)だけじゃありません。それ以上に、人が何年もかけて知ること(サービス業にせめて1〜2年従事しないとわからないこと)を肌身を持って学べますから。

それは、レストランが腰を折るくらいの重労働だってこと。かなりの長時間働いているというのに、なかなか感謝されないってこと。僕は自分の親、シェフ、それからウエーターさんたちが、週末や夜、祝日を削ってまで働く姿を見てきました。それも誰かのお腹を満たすためだけに。

でも、レストラン業に人生を捧げるのには理由があります。なぜなら、ここには何にも代えられない魔法があるから。とりわけ白いテーブルクロスの角を持ちながら歩くことを教わった子供にとってはね。そういえば人が歩いて入れるサイズの冷凍庫に兄弟を閉じ込めるのは拷問ですが、ぜったいに誰がやったかわからない、なんてことも学んだっけ。

いろんな人やアイディア、それから味が行き交うレストランでは、じつにたくさんのことが学べた気がします。

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「誰しもせめて一回はレストランで働くべきだ」とは、よく聞く話。サービス業に就くと、かなり成長させられますからね。なんせペースの速い職場環境ですし、口うるさいお客の込み入った注文も「ハイハイ」と受け入れなきゃいけないし。

でもレストランで育ったとしたら?ウエーターやバーテンダー、それからピザ職人があなたのおじさんやおばさんだったとしたら?業務用の厨房がリビングだったら?家でのお手伝いがレストランでのお手伝いだったなら?

そこで私はレストランで働く(ウエイターでも、キッチンでも)親を持つ友だち何人かと、レストランで学んだライフレッスン、そしてそこから学んだ特異な習慣を話し合って、ここにまとめみました。

01.
ワークライフバランスの大切さ

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レストランはとんでもなく忙しい場所です。四六時中、フライパンを洗わないといけなかったり、ソースを完成させなきゃいけなかったり。お客の要望に耳を向けなきゃいけなかったり、パーティをプランしなきゃいけなかったり……もうつねにやることだらけ。

そうしているうちに心の余裕が一切なくなります。気をつけないと心に被害を及ぼすほどに。だから、たまには一歩引いて自分を見ることが大切。ディナーサービスのカオスから離れて、プライベートの時間を楽しむのは非常に難しいけれど、ゼッタイに必要なことです。

02.
見えない部分にもこだわりアリ

チェック柄のワイドなシェフパンツほどクールな制服はありません。ぶかぶかですが、履き心地は抜群。最近のコック服はとてもシックだったりします。チェック柄(もしくはボーダー柄)はパンチが効いているし、メモにペンに栓抜きに、あらゆるアイテムが詰められるよう、至るところにポケットが用意されているのも◎。

シェフパンツといえば、キッチンでは欠かせないもうひとつのスタイリッシュなアイテムと合わせるのが掟。それがゴム製の靴。見た目以上にオシャレですよ。

03.
時間厳守はチームの鉄則

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勤勉な姿勢を持っていないと、レストランで信頼を得ることはまずできません。忙しいシフトこそがチームを成長させるし、ひとりでも欠けてしまうとみんなが苦しみます。

とにかく時間通りに出勤することこそ、仕事に対してどれだけ熱心かを表す指標。料理をする、料理を出す、仕事を始める……これが一連の流れですが、それ以前にあなたが現場に到着していないと何も始まりません。

時間厳守を徹底すること。それは成功へと導く最短の道なのです。

04.
キーアイテムを見極める

つまり、バターほど尊いものはない。これ以上、何もいう必要はないでしょ?

05.
トップにもプレイヤーにも
同じリスペクトを

どんなレストランであっても、厳格な権力構造が存在します。基本的には総料理長がキッチンを見守り、総支配人がホールを見守る。ホールなのかキッチンなのか、役割は何であれ誰しもが敬意を払われるべきなのです。

もちろん、地位が高い人もいます。当然彼らの役割の方が目立って見えるし、より感謝されているようにも感じられます。けれど、レストランで育った側からしてみると、全員が力を合わせてこそチームとして成立することがよくわかるのです。だから、どんなに小さな役割を持つ人にも感謝の気持ちを忘れずに。レストランでなくても通ずることでしょうけどね。

06.
足りないくらいなら、余らせる
余裕と準備が“吉”

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これはとても実質的だし(だってどんな飲食店だって、サービス中に品切れになるのは避けたい)、スピリチュアル(満たされない人間がいるなんて、考えるだけでも不謹慎)でもあります。

レストランで働く人にとって、“ホスピタリティ”は何よりも大切な美徳。満足してもらえないとわかると、心はずーんと沈みます。一方で自分は、食べものが底をついてしまうんじゃないか、という不安とつねに隣り合わせで生きています。そんなこともあって、僕のディナーでは残りものが保証されているのでご安心を。

07.
勝機と判断力の重要性

どちらかひとつを選ぶことができなかったので、どちらとも挙げました。もちろんレストランで務める人にとっても、レストランに通う側も、自信はなくてはなりません。塩は的確に、賢く振りかけないといけないし、最後の一品と決めたら心変わりをしてはダメ。

レストランのペースは、日常を10倍早送りしたペース。つまり、おどおどしている時間も、道を踏み外している時間もないのです。判断を下してからの路線変更なんてもってのほか。次のステップに揺れていたら、あなたも周りも困るだけ。

08.
相手の心を掴むには
まず、胃袋から

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レストランに長いこといれば、必ずや何かが溶けるのを目にします。それは、アイスクリームやソースだけとは限りません。人の機嫌だって溶けて崩れていきます。そんな中ゼッタイに見飽きないのは、おいしさに感激したお客の表情。

人は驚きと喜びを求めて外食をするもの。だから、そのどちらか(もしくはその両方)を見れると、まるで魔法でもかけたかのような気分になれるのです。食べものとは、計り知れないパワーを秘めているものですから。

09.
どこでも眠れるスキル

こんなこともレストラン育ちで学んだ知恵かもしれません。閉店時間と就寝時間は、ほとんど(というか一切)釣り合わないので、子供は子供なりにどうにかしないといけません。眠気がさしたら、ブース席やソファー席とクッションを活用して、横になるのも悪くありませんよ。

Written byValerio Farris
Top image: © iStock.com/AleksandarNakic
Licensed material used with permission by Food52
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