アサヒ飲料など5社、ペットボトル飲料の「製造ロット逆転」を許容へ
コンビニやスーパーで何気なく手に取る1本のペットボトル飲料。賞味期限はたいてい1年以上先なのに、製造日がほんの数日前後しただけで、店頭に届く前に廃棄されていた——。清涼飲料大手5社が、この「見えないムダ」を業界横断で解消しようとしています。
賞味期限が数日短いだけで「規格外」
聞き慣れない言葉ですが、「製造ロットの逆転」とは、先に納品した商品より後から届く商品のほうが賞味期限が短い状態を指します。
たとえば、月曜に届いた飲料の賞味期限が2026年8月で、水曜に届いた飲料が2026年7月——こうした「逆転」が起きないよう、メーカー・卸・小売の間では日々ロットを揃えるための輸送が行われてきました。
この追加輸送が叶わなければ、商品は行き場を失い、消費者の手に届く前に廃棄されてしまう。賞味期限が1年以上残っている飲料が、たった数日〜1か月の前後で「規格外」になるのです。
背景には、日本の食品流通に根づいた「鮮度信仰」とも呼べる商慣習があります。農林水産省が進めてきた「3分の1ルール」の見直しもその延長線上にありますが、飲料のロット管理はさらに細かい次元の話。
しかも2024年4月からトラックドライバーの時間外労働規制が強化され、いわゆる「物流2024年問題」で輸送力そのものが逼迫しています。ロットを揃えるためだけにトラックを走らせる余裕は、もうないのかもしれません。
棚を奪い合う飲料5社が同じテーブルに
2024年11月、アサヒ飲料、伊藤園、キリンビバレッジ、コカ・コーラ ボトラーズジャパン、サントリービバレッジ&フードの5社は「社会課題対応研究会」を発足させました。普段は棚を奪い合うライバル同士が、物流負荷と食品ロスという共通課題の前で手を組み、個社単位では変えられない商慣習の壁を、業界横断で崩そうという試みです。
2025年に同研究会が実施した消費者意識調査の結果によれば、ペットボトル飲料の賞味期限を気にする人は約1〜2割にとどまり、賞味期限表示義務のないアイスクリームとほぼ同水準だったとのこと。さらに、店頭で1か月の賞味期限逆転があっても9割近くが「購入する」と回答しています。
つまり、業界が厳格に守ってきたルールと、消費者の実際の感覚には大きなズレがあった。このギャップを数字で可視化したことが、商慣習を動かす説得力になったのでしょう。
品質は変えず、裏側の物流だけ変える
そして今年7月より、セブン-イレブン・ジャパンが清涼飲料でこの取り組みを開始。サミットも7月下旬より一部店舗で実証実験に入る予定です。具体的には、従来の納品期限内で製造ロットの逆転を一定範囲で許容しつつ、納品期限や販売期限そのものは維持する。つまり、消費者が手に取る商品の品質には影響を与えず、裏側の物流だけを合理化しようというもの。
この取り組みが広がれば、ロット合わせのための追加輸送が減り、CO₂排出の削減にもつながります。店頭に届く前の廃棄が減れば、食品ロスの数字にも反映されるはず。農林水産省の統計によれば、日本の食品ロスは年間約472万トン(2022年度推計)。飲料1本の話は小さく見えても、業界全体で積み上がれば無視できない規模になります。
私たちはふだん飲み物を買うとき、「賞味期限がより長いもの」を本当に求めていたのでしょうか。おそらく多くの人にとって、答えは「考えたこともなかった」ではないかと思います。
気にしていなかったことが、誰かの追加輸送と、誰かの廃棄作業を生んでいた。その構造がいま変わり始めていることは、次にペットボトルを手に取るとき、ほんの少しだけ意識してみてもいい事実かもしれません。






