サプールだけじゃない 世界同時多発する「FASHION TRIBES」の言葉
豊かな精神性を“エレガント”に求めたサプール。彼らを紹介した写真家のダニエーレ・タマーニ氏は、そのほかにもセネガル、ボツワナ、ボリビア、ヨハネスブルグ、ビルマなどを回り、世界の若者たちを取材、各地で同時多発しているファッションの変化を『FASHION TRIBES – GLOBAL STREET STYLE』にまとめた。
彼らが暮らす環境が垣間見える写真とコメントを見てみよう。それぞれのスタイルから見えるイメージと本人たちの言葉を合わせて見ると、確固たるプライドを感じるものもあれば、見た目から得る一般的なイメージと相反する側面を持った人々もいる。ここでは、タマーニ氏が被写体と生活をともにし、信頼を得て撮影に挑んだ作品集の内容を一部紹介する。
ヴィンテージ・クルー
南アフリカで、ダンスとファッションを通して自己表現を行っているグループ。
「本当に薄汚い場所から出ても、大切なのは自分をどう見るかだ。ゴミか黄金か。誰も人の奮闘は見えないものだし、故郷に置いてきたものも知り得ない。大事なのはどう自分を提示していくのか、それが一番だ」。
マント・リベイン
「僕はアパルトヘイトの時代に生まれなかったことをラッキーだと思っている。民主的な国で暮らし、学校へ行き、自分が好きな言語を学べるのは幸運だ。もっとも大事なことだが、自分がアーティストでいられることはとても嬉しいし、人々を楽しませ、ダンスを通じて人を教育し、仲間たちに何かを与えられることを嬉しく思っている。アパルトヘイト下では無理だったからね。マンデラさん、安らかに眠ってくれ。伝説であり、父であり、全ての人の平等を信じて、各々が均等な機会を手に入れ、夢を現実のものとできるようにしてくれたことを感謝したい。それが大きな違いを生んだのだから」。
タリン・アルバーツ
「僕たちのパフォーマンスはすべてに注意が払われ、ルックやダンスだけではなく、どこかアート・ギャラリーのようなものになっていった。僕たちはそこからさらに推し進めて、ハウス・オブ・ヴィンテージ・コレクティブを作り、デザイナーや学者や自由な思想家を繋げることにした。僕らはアート・ホテルの屋上のパフォーマンスや振付の練習を週3で行っている。それは象徴的な選択で、僕らがアーティストであるだけでなく、屋上はグループの息吹となる自由な感覚を与えてくれる。僕らに限界はないんだ」。
リー・チー・ルードボーイ・ヤネック
テンビサ・レボリューション
「Sa Best Dance」コンペティションで2012年に優勝。
カニエ・ウェストなどともコラボレートしたダンスクルー。
「やること全てに情熱を持って向かい、その情熱が俺たちの仕事に厳しさを与える。俺たちは基本的にあらゆる音楽を聴いて振付を向上させ、クリエイティブでありたいと思っている。俺たちは結果的に他のダンサーたちと違って見えるようなファッションが好きなんだ」。
「俺たちはタップシューズを履いて踊っている。でもシューズがとても高価だから、空き缶から作るんだ。ボロボロになれば缶をリサイクルして交換する」。
テンビサ・レボリューション
ザ・サルティスト
エレガントで個性的なファッションを追求している。
「高校で勉強しながら、俺は16歳だったと思うけど、50年代、60年代の政治家たちのスタイルが好きになった。マーティン・ルーサー・キング・Jr、パトリス・ルムンバとかね」。
「スマーティーズはとても色鮮やかで、クラシックなファッション・スタイルとは異なる(色彩のパレットを持っている)。南アフリカでクラシックはココ・シャネルだが、俺たちは女性にトム・ブラウンの赤や白や青を着せるのも好きだ」。
カベロ・クングワネ(サルティスト)
スマーティーズ
南アフリカのポップカルチャー・シーンで大人気を博した「スマーティーズ」。
俺のスタイルはクラシックだ。ファッションはよく変わるものだが、俺は自分のテイストに忠実でありたい。60年代や70年代の大人のスタイルにインスパイアされる。モブツ・セセ・セコのような伝説の人物像に」。
ティーケイ ソウェトのファッションデザイナー
サプール
「“ラ・サプ”は色に歌わせる。でも色をいくつも合わせる方法も知らなければいけない。1着のスーツには3色までだ」。
レトワル・ドゥ・ラ・サプ
「サプールを名乗るには2つの条件がある。フル・スーツを持っていることと、人と違うポーズがいくつかとれること。ファッションは熱狂だ。常に移り変わる。でも礼儀正しさと洗練されたマナーさえあればサプールは無敵だ」。
ハサン・サルヴァドル
ビルマ・パンクス
「俺は自分のパンク・スタイルが好きだ。俺のアナキストとしてのアイデンティティでもあるし、社会に押し付けられるルールに反対を表明してるだけ。誰も着ているジャケットで判断されるべきではない。パゴダ(仏塔)に入る時に問題があるかもしれないけど、ブッダも俺の洋服にまで興味ないだろ。外見でなく、どんな人間かで判断されるべきだ」。
サット・ムー・シェイン
別名シドあるいはアインシュタイン・MC・キング・スカンク
C.I.B.(Chaos in Burma)のリードシンガー
「俺の母親はこのスタイルも音楽も嫌いだったけど、今は俺の反体制の考えを共有してくれるよ。母親を味方につけるのに、テクノロジーの学士号をとったんだ。そうしたら放っておいてくれた。俺は大勢に反逆していると思いたい。それにスタイルも、着こなしという意味でも、アイデンティティを強調するのに大切なものだ。それはルーツや押しつけを避けるためのものさ」。
デニス(ビルマ・パンクス)
「俺の人生も音楽もパンク一色だ。パンクは俺の人生哲学なんだ」。
スカム、カルチャーショックのリーダー
グザリー・ファッションと
ディリアンケ
「今日、ファッションのおかげで、多くの女子が華開くことができる。先入観を超えることもできるし、その比べようもないエレガンスで世界を驚かすことができる」。
オウモウ・シー、ファッションデザイナー
「男の人は私たちに近づくのが怖いの。私たちがとても強い個性を持っていると知っているから。私たちの他と比較しようのないエレガンスに惹かれ、同時に私たちの素晴らしい肉体と公衆の前で自分を見せる自身を怖がっているのよ」。
ドラバ
フライング・チョリータス
「11歳の時から、私はレスリングに賭けてきたけど、最初はプロではなかった。私は女性のレスリングのパイオニアの1人よ。自分の家族以上に好きなの。ラス・ディオサス・デル・リング(リングの女神)というグループを設立したのも私。私のモットーは“力と暴力を、優雅さとエレガンスに合わせること”」。
ポロニア・アナ・チョケ・シルヴェストレ
別名カルメン・ロサ・ラ・カンペオーナ
アフロメタル
「私たちはあまり人前に出ない。シャイだし、アグレッシブな性格とは程遠い。同じ女性たちにライバル意識なんて全く感じない。みんなが繋がっているの」。
モリマ・ルード(アフロメタル)
別名“ディグニファイド・クイーン(威厳ある女王)”
本書は、社会学者や美術研究者による考察も収録されている記録的作品。一度手にとって、その目で確かめてみてはどうだろう。彼らの存在感をよりリアルに感じ取れるに違いない。