戦地でつくり続けた「不屈のワインメーカー」が語る、人生哲学

これは「ワインという生き方」そのもののストーリー──。

人生に迷っている。そんな方に是非おすすめしたいドキュメンタリー映画があります。「アップリンク吉祥寺」を皮切りに全国順次ロードショーがはじまった『戦地で生まれた奇跡のレバノンワイン』です。

© ユナイテッドピープル(cinemo)/ YouTube

舞台は、地中海で海上貿易の拠点として活躍してきた中東の小国レバノン。この地が、世界最古のワイン産地のひとつなのはご存知ですか? 起源はじつに7千年前まで遡るという説も。

レバノンといえば、1970年代より度重なる内戦や隣国との軍事衝突を繰り返してきた国。そうした戦火のなかでもワインを生み続けた、不屈のワインメーカーたちが作中に登場します。

“レバノンワインの父”と称えられるセルジュ・ホジャールもそのひとり。ワイン造りを通して彼らが語りかけてくるもの、それは幸福論であり、人々の生き方そのもの。

コルクを開けたとき、
「闘い抜いた香り」がする

ぶどうの品種、ニュアンス、アロマ香……ワインに精通している人は、コルクを抜いた瞬間に広がる香りで産地の特徴がわかると聞いたことがありますが、本作品の主題であるレバノンワインの特徴について、映画のなかでこんな表現が登場します。

たとえるならば、「闘い抜いた香り」。

ぶどう畑が戦争に巻き込まれないか。収穫物を運ぶトラックが爆撃を受けないか。いつどうなってもおかしくない環境にありながらも、なんとしてでもおいしいワインを届けたい。その一念で生み出される、まさに戦火を生き抜いた“生命力”を感じさせるワイン。

「闘い抜いた香り」には、そういった背景が込められているんでしょう。

「こんなジェットコースターのようなワインは初めてだ!」

作中に登場する、ソムリエのセリフを書き出してみました。

ワインの味の変化をジェットコースターにたとえるのは、たんにレバノンワインの個性を表現したものではありません。食事に寄り添う「お酒」としてのみならず、ワインを通してレバノンという国そのものを「擬似体験」する。味わいの背景にあるそういった複雑さを表した言葉と受け取りました。

長引く内戦のすえ、国内販売のじつに90%まで減少したと言われるレバノンワイン。そんな状況下において、セルジュ・ホシャールの弟ロナルドは輸出に突破口を見出そうとします。

自分たちのワインボトルを詰めたスーツケースを片手にロンドンへと旅立つロナルド。待ち受けていたのはイギリス人からの辛辣な一言でした。

「難民のレバノン人が何をしにここへ?」

そこで切り返したロナルドの次の言葉に、ワインの知識に乏しい自分でもこの映画をおすすめする最大の魅力であり、ワインづくりを通したレバノン人たちの人生哲学を垣間見た気がしたのです。

「難民なんかじゃない。冒険家だ。」

たしかにワインの楽しみには「知識」も必要でしょう。けれど、そうした知識を必要とせずとも『戦地で生まれた奇跡のレバノンワイン』は十二分に見応えのある作品です。

数奇な運命に翻弄されながらも逞しく大地に実るのぶどうは、レバノンの人々のアイデンティティそのもの。真紅のワインと共に生きる人々から、あなたもきっと幸せとは、人生とはどういうものかをあらためて考えさせられはずです。

ワインから生まれるものがたり。ぜひ、映画館でご覧になってみてください。

『戦地で生まれた奇跡のレバノンワイン』

【上映】11月18日(金)より「アップリンク吉祥寺」ほかにて全国順次ロードショー
【監督】マーク・ジョンストン、マーク・ライアン
【出演】セルジュ・ホシャール、マイケル・ブロードベント、
ジャンシス・ロビンソン、エリザベス・ギルバート他
【配給・宣伝】ユナイテッドピープル
【公式HP】https://unitedpeople.jp/winewar/

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