日本最古のジーンズブランドを知っていますか?
いまや世界中でファッションアイテムとして愛用されているジーンズ。そのルーツが、19世紀後半にアメリカで誕生した労働者向けのワークウェアであったことはよく知られている。では、日本で初めてジーンズが作られたのは、いつのことかご存知だろうか?
「これだけアメリカの中古が売れるなら
自分で作ったらいいじゃないか」
千葉県にあるジーパンセンターサカイで展示されている1960年代当時のCANTONのジーンズ。犬のキャラクターを裏側にプリントしていた。当時のモデル。
じつは、それは東京オリンピック開催前年の1963年のこと。「CANTON(キャントン)」というブランド名で日本初の国産ジーンズが発売された。当時、すでに日本でもジーンズは人気となっていたが、ほとんどがアメリカからの中古の輸入品。みんな、それを直して履いていたのだ。
そんななか、ジーンズの輸入を手がけていた大石貿易という会社が、「これだけ売れるなら自分で作ったらいいじゃないか」と国産ジーンズの開発に着手する。
写真は、1980年代に一時復刻していたCANTON。
瞬く間に日本を席巻した
伝説の「CANTON」
当時の日本では、当然、ジーンズに使われるデニム生地は生産されていなかったため、大石貿易はアメリカで品質の高い生地を探す。その結果、たどり着いたのが、「キャントンミルズ」という生地メーカー。この会社の生地を使うことが可能となった後、本場のジーンズを参考に、パターンや縫製方法を徹底的に研究。ついに国産ジーンズ第1号が完成する。ブランド名には、生地メーカーの名前をそのまま冠した。
本格的な品質と日本人の体型にあったシルエットを持ったCANTONのジーンズは、瞬く間に日本を席巻した。好調だったCANTONだが、その最中にキャントンミルズ社とブランド名の使用に関して裁判となってしまう。大石貿易は勝訴したものの、CANTONブランドの使用をやめてしまう。その後、後発の国産ジーンズブランドの台頭や時代の感覚の変化により、大石貿易の業績は次第に悪化。そして、誕生からわずか5年で表舞台から姿を消し、伝説のように語り継がれることとなる。
上は国産ジーンズ誕生の年を冠して、「1963XX」と名付けられたモデル。素材やディテールにこだわり抜いた本格派。下は“MADE IN JAPAN”を主張するタグ。
「メイド・イン・ジャパン」のプライドが
通用するか確かめたかった
そんなCANTONが、実は40年以上もの長い時を経て、2008年に復活を果たしている。当時を知る人々が、その功績をリスペクトして、「CANTON OVERALLS」という新たな形で甦らせたのだ。繊維商社「豊島」でCANTON OVERALLSのディレクターを務める佐藤健二氏は語る。
「いまのジーンズのマーケットを見たとき、本当にジーンズに想いを込めて作っているメーカーは多くない。そんな時代だからこそ“メイド・イン・ジャパン”のプライドが通用するか確かめたかった。『CANTON』を復活させるなら、いましかないと思ったんです。物真似でもなく、当時の再現でもない。未来に向かって新しい商品を作りたいという想いのもと、ものづくりをしています」
現代のCANTON OVERALLSは、濃紺のツナギやクレイジーパターンの7分丈など、ジーンズの既成概念に挑戦する個性的なアイテムも手がける。
日本初の国産ジーンズの名を受け継いだ「CANTON OVERALLS」は、それにふさわしい先進的なジーンズを作り続けており、そのユニークなデザインは、多くの芸能人やファッションリーダーも虜にしている。
日本のファッション黎明期に想いを馳せながら、足を通してみてはどうだろう?