なぜ、インスタントラーメンがアメリカの刑務所で、「タバコ以上に価値ある通貨」とまで言われるようになったのか?

インスタントラーメンが、アメリカの刑務所内でタバコに取って代わる“通貨”となった。「The Guardian」が報じたこのニュース、クライム映画やドラマに登場してきた刑務所のイメージに、袋入りラーメンを重ね合わせることがどうしてできよう。が、これ現実の話。

ラーメンはタバコ以上に
貴重な食糧源

記事によれば、刑務所の経費削減方針にともない、現在所内で提供されている食事の質も量も低下傾向。その中で取引されるインスタントラーメンが貴重な生活必需品になっているんだそう。

「日々労働や運動の時間を課せられている受刑者たちにとって、エネルギー補給は死活問題です。ところが、食事の満足度が低下している。その点ラーメンは1食で効率良くカロリーが摂取できるうえ、今や全米どこでも簡単に手に入りますからね」。

とは、アリゾナ大学の社会学者マイケル・ギブソンライト博士のコメント。氏は刑務所内での受刑者たちの労働をテーマに研究を続け、これまでにおよそ60人の受刑者から聞き取り調査を行ってきた人物だ。

刑務所の中では
「ラーメンの袋」がすべてさ。

ギブソンライト博士の調査では、とくにインスタントのスープは高く評価されていて、すでに刑務所内でもタバコをしのぐ貴重な流通品としての位置付け。さらに、この動きは今や全米中へと広がり、インスタントラーメンの取引がある種トレンド化しつつあるというのだ。

彼の分析を裏付けるような受刑者たちのコメントを「MUNCHIES」が紹介する。Rogersという男性受刑者の本音に、最もそれがよく表れていた。

「何にしたって、刑務所の中では金がすべてさ。だけど、ここではそれがラーメンスープの袋なんだ。悲しいかな、それが現実なんだから仕方ない」。

民間委託以降、経費削減の
矢面に立たされたのが食事

日本のラーメン店が東海岸へと出店したことで、ここ数年ラーメンブームに沸くアメリカだが、インスタントはもう何十年も前から彼らの日常に浸透している。今回、意外な場所で勃発した“もうひとつのブーム”をギブソンライト博士は刑務所内の厳しい食事事情にある、と見ている。

刑務所内で提供されるラーメンがごちそうだったと「BBC」の取材に語るGustavo “Goose” Alvarezは、1990年代と2010年代に服役経験がある。その彼もこう言う、「90年代の食事はいい素材を使っていたろうし、まともだった」と。

年々受刑者が増え続けていたアメリカでは、刑務所の運営経費が高騰していた背景がある。抜本的な解決策として、多くの自治体が2008年ごろより段階的に、運営を民間委託し始めた。ところが、ここで経費削減の矢面に立たされたのが、日々の食事だ。

コストカットのあおりを受け、温かい食事は日に3回から2回へ。週末にいたっては1日2食。たしかに、これでは重労働や運動に体力を持たせる方が難しい。嗜好品であるタバコよりも、まずは生き延びるためのインスタントラーメン。それは、「塀の中」独特の思考なのかもしれない。

こうして、一番人気の交換物資であったタバコは、インスタントラーメンに取って代わった。

タバコ5本でラーメン1袋
スウェットシャツは2袋と交換

ところで、ギブソンライト博士が行った調査によると、インスタントラーメン自体の価格は、おおよそ59セント(約60円)ほどだが、所内ではその何倍ものレートで取引されているらしい。

以下、ふたたび「The Guardian」より抜粋。なお、()内は“シャバ”でのレート、見比べてみてほしい。ラーメンが引き金となるケンカは日常茶飯事で、殺人まで起きたこともあるという。

タバコ5本(2ドル)でラーメン1袋
スウェットシャツ(10.81ドル)は2袋と交換

あのインスタントの袋が、価値ある物資として取引される塀の中の世界。我々の想像する以上に、アメリカの受刑者たちの懐具合(ここでは胃袋の意味も込め)は、ひっ迫している証拠なのかもしれない。

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。