自分の持ち物ほど粗雑にしてしまう理由、教えます。

Harvard Business Reviewに掲載された、人間の行動心理を巧みに表現した記事を紹介します。

人間は、新しくてより機能性や価値の高いものを手にするとき、現在使っているものを単純にリプレースすることにためらいがあり、なんらかの理由付けが必要だという研究内容。これをスマホの機種変になぞらえて解説している点など、自分たちの日常に落とし込んで考えるのにとっても理解しやすい!

まずはこの動画からどうぞ。

ブリトーの代わりにスマホを電子レンジに入れたり、実験中に化学薬品の入ったバケツに落としたり、タクシーの後部座にスマホを忘れたことに気づいていながら…と一風変わったこのシチュエーション、これってうっかりミスでしょうか?

答えはNO!
Virgin MobileのこのCM動画は、“うっかり”スマホを落としたり、壊したり、忘れたりして、新機種が必要な人々を描いたもの。これって、ただおもしろいだけのCMなのでしょうか。

今、自分が手にしているモノよりももっと良いものがある、そのことを知っていると、人間は自分の持ち物を雑に扱ってしまうのではないか。ミシガン大学の進化心理学者Josh Ackerman教授とともに、ちょっとしたリサーチをしてみました。

新機種リリースと同時に
スマホの扱いが雑になる

まずはスマホから。
世界中で紛失されたiPhoneから約3,000件のデータを調査したところ、iPhone6、7と新しいモデルがすでにリリースされていた場合、失くした自分のものを探そうという確率が下がることが分かりました。

ここで大切なのは、世界中で発売されているiPhoneの数と照らし合わせた場合でも、同じことが言えるという点です。数百台のスマホをさらに詳しく証査したオンライン上のリサーチでも、新しいモデルがリリースされると、人々のスマホに対する扱いが雑になるという傾向に。

自分のモノでも、
愛着があるかどうか

扱いが雑になるのはスマホだけではないようです。
たとえば、マグカップやメガネのような日用品から、シャンプーや香水などの消耗品まで。100人を対象に行ったこんな研究があります。

被験者にマグカップを無料提供し、およそ半数の被験者にはマグカップのアップグレード(提供したカップより質の良いもの)をあげると約束しました。その後全員にそのマグカップをブロックの頂上に置き、直方体のブロックを組み上げるゲーム「ジェンガ」をしてもらいました。

すると、予想通りアップグレードの存在を知っていた被験者たちは、知らない人たちと比較してジェンガの成績が悪かったのです。つまり、ブロックを積んだタワーの上からマグカップを落としてしまう回数が多かった、という結果に。

今度は、400人を対象にした別の実験では、シャンプーや柔軟剤、歯磨き粉、香水などあらゆる消耗品を使って、人々の不注意の度合いを調査。

この実験においても、頭の片隅にアップグレード(同じ商品がもう1つあるのではなく、より品質の高い商品)があった被験者たちは、そうでない人たちに比べより早く、たっぷりと使用し、消耗を早めている傾向が明らかになりました。

彼らのほとんどは、自分たちが無意識に浪費している事実に気づくことなく、自分がアップグレード商品を使いたいがために、いつも以上の量を使用していることも理解していませんでした。

“言い訳”や“理由づけ”で
買い替えを正当化する

では、なぜ人間には明らかに自分をダメにしてしまう習慣があるのでしょう?それは自分の決断を正当化したいという、根本的な欲求からくるものだと考えられます。

依然として消費社会の世の中で、新商品登場までのサイクルがどんどんと短くなったことで、手元にあるモノが十分機能しているにもかかわらず、より高品質、高機能なもの(たとえばPCやスマホなど)に買い換える機会が多くなっているのです。

もちろん、今使っているものが壊れたり、使い切ったりしたのなら、それは無駄遣いではなくまっとうな理由がある訳で。本来ならば、理由もなく新しいモノに買い換えるのは良心が痛むはずなんです。なのに、その事実にフタをするかのように、土砂降りの雨の中でスマホを使ってみたり、ノートPCを空港に忘れたりしても、自分に言いわけをして調整してしまうのです。

事実1,000人を対象に行ったネットアンケートの参加者たちは、自分の持っているものが機能せず、そこしでも壊れていると感じたとき、買い替えやアップグレードの正当性を感じたと答えています。

興味深いのは、自分の感情で決断を正当化しようとする人(たとえば、「キーパッドの感覚が好きだから新しいPCを買う」など)よりも、理由をベースに自分の決断を正当化しようとする人(「もっと効率よく仕事をするためには最新のPCが必要」など)の方が、このアンケート結果が当てはまったんだそう。

決断を正当化させたい人ほど
持ち物を雑に扱っている

シカゴ大学の行動科学者Christopher K. Hsee博士と研究者たちは、こうした人間の諸費行動を「Lay Rationalism(潜在的な合理主義)」と呼んでいます。

自分自身の持ち物を雑に扱ってしまうのは、「アップグレード商品を買いたい」という欲求を、無駄遣いだと意識ささせずに正当化するからであり、とくに自分の決断を合理的に正当化させたいと強く感じる人ほど、特に持ち物を雑に扱う傾向にあるということです。

自分が使っているモノに飽きてしまったなら、粗雑に扱ったり放っておくのではなく、リサイクルしたり、誰かに寄付したりするという方法もある訳ですから。誰かが幸せになり、環境にもやさしく、何より自分自身もアップグレードを手にいれるのに、後ろめたさを感じなくて済むのではないでしょうか。

Reference:876commercials
Licensed material used with permission by HARVARD BUSINESS REVIEW
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