学校の常識を変える「オルタネイティブ・スクール」の魅力
週に5回、同じ学年の子どもたちがクラスメイトと一緒に、国語や算数といった教科を学習するのが当たり前な日本の小・中学校。私も、かれこれウン十年前になりますが、学期末にグッドな成績表を持ち帰れるようにと幼いながら奮闘していた記憶がうっすら蘇ります。
でも、もし学校に通うのが週3、4回でよかったり、同じクラスに年上の子がいたり、テストがなかったりする学校が選択肢としてあったらーー。
そんな、独自の教育方針をもつ学校形態「Alternative school(オルタネイティブ・スクール)」が欧米で拡がりを見せています。
オーガニックレストランが
学び舎の中心
私の住むテキサス州の首都オースティン市内にも、20か所以上のオルタネイティブ・スクールがあります。その中のひとつ、3~17歳と幅広い年齢層の生徒が通う「Integrity Academy」は、オーガニックレストランが学び舎の中心というユニークなコンセプト。
というのも、26年前に創業したレストラン「CASA DE LUZ」のオーナーが長年の夢だった教育施設を、レストランと同じ敷地内にオープン(2014年)。パートタイムモデルを採用し、生徒は週4回、1日6時間学校に通います。
一般的な公立・私立の小・中学校よりも学校滞在時間を短くすることで家族と過ごす時間を増やし、ゆとりのある家族内コミュニケーションをもってほしい、という学校側の想いが込められています。
生徒たちは、ランチタイムにレストランのテーブルで他の食事客と一緒に、100%オーガニックメニューを楽しみます。
野菜のカラーによるビタミンやミネラルなどの栄養素の違いを知ることで、いろいろな野菜をバランスよく食べることの大切さを学んだり、スナックタイムには有機野菜スティックやフルーツを屋外でぽりぽり。
栄養たっぷりの安心食材で、丈夫な身体の基礎をつくるのです。
クッキングやガーデニングのカリキュラムなどを通じて、食育やそのバックグラウンドにあるサイエンスを学びます。
「理科」や「家庭科」といった科目制ではなく、自然に触れて感じる、机上ではない体験型アクティビティを通じて、総合的に学んでいきます。
1クラスに
年上と年下がいる3学年
「Integrity Academy」では、1クラスを3学年ごとに分割。同校のエグゼクティブディレクターAli Ronderさんはこう話します。
「ひとたび社会に出れば、同じ年齢の人だけとのコミュニティで活動することは滅多にありません。様々な年齢や性別、バッググラウンドを持った人々と連携し協業する必要があります。ひとつのクラスに年上と年下がいることで社会的役割を学び、思いやりの心を養うことができます」
家族と協働する
ロングベースなプロジェクト
このアカデミーでは、親や家族といったコミュニティのメンバーと一緒に協働するプロジェクトを積極的に立ち上げ、長期的なスパンで取り組むことで社会とのネットワークづくりやコラボレーション、コミュニケーションの大切さを学びます。
5〜7歳のクラスではガーデンの脇に小川を作るプロジェクトを実施。岩の収集から設置、水ひき、チューリップやスイセンなどの植栽まで、大人と協力しながら完成させる過程で、子どもたちは失敗を繰り返しながらもゼロから1を創り出す喜びを経験します。
大人たちも子どもたちの成長を学期末の成績表ではなく、リアルな形で継続して感じることができるのです。
また、学校で何を学んでいるのか、何を学んでほしいのかという親の疑問や意見を持ち寄る場を2か月おきに設定することで、子どもたちを学校と家庭の両参加型でしっかりとサポートする体制を整えています。
オルタネイティブスクール
という第3の選択肢
オルタネイティブスクールは、州ごとによって定められた教育方針やガイドラインに沿った主流または伝統とは異なる教授・学習方法をとる学校形態で、アメリカでは1990年代から徐々に社会にその存在が知られるようになってきました。
産業革命以降、良い企業に入りキャリアを積んでいくことが大切という考えのもと、そのための人材教育がなされてきましたが、社会構造が大きく変化するいま、教育の民主化が必要ではないか、という動きがオルタネイティブスクールの誕生へとつながっています。
公立や私立の小・中学校との違いは、通学スケジュールが週2,3日と少なかったり、学年違いの生徒が1クラスで一緒に学んだりと、学校によってさまざま。独自の教育方針を持ち、少人数制で子どもたち一人ひとりの才能や個性を伸ばすためのカリキュラムを組んでいます。
法的にも認められる
ホームスクーリング
アメリカでは義務教育制度が各州にゆだねられていて、州憲法や教育法によってそのあり方を定めています。テキサス州では6歳〜18歳までが義務教育期間。
ただし、学校に通学せず、家庭に拠点を置いて保護者が子どもの教育の全責任を負う「ホームスクーリング」が法的に認められており、この方式で学ぶ子どもたちも一定数存在します。
ホームスクーリングで学ぶ子どもたちのなかに、週の半分やサマーキャンプなどの一定期間、オルタネイティブ・スクールに通うという選択があるのです。
私の訪れた「Integrity Academy」では、子どもたちに
「Who they are, What they are doing in this world
(自分は何者なのか、この世界で何をするのか)」
を学び、自分の才能や価値に気付いてほしいという教育方針のもと、年齢関係なく家族も一緒になってみんなで学んでいる姿が印象的でした。
ここでは、0歳からウェイティングリストが存在するというから、その人気の高さがうかがえます。人生の成功や幸せの基準が多様化するなか、多感な子ども時代をどこでどうやって過ごすのかを選択できるという「教育の民主化」は、選択肢があるという意味で、とても魅力的に感じたのです。