「リーダーシップ」のコツは「リーダーシップを取らないこと」
仕事でも仲間同士のコミュニティでも、いざリーダーシップを取ろうとすると、とても大変。それは、誰もが経験から知っていることでしょう。
たとえ自分が上のポジションについていなくとも、「リーダー」として人をまとめなければならないシチュエーションは誰にでも、いつでも訪れる可能性があります。
人を動かすためには、どうすればいいのでしょうか?
そんな悩みに答えているのが「Mashable」に投稿されたAaron Orendorffさんの記事。彼によれば、リーダーシップを取るための1番のポイントは「リーダーシップを取らないこと」なのだとか。
誰もが「人間らしく」
扱われたい
社会が複雑に交わり、リーダーシップを取ることががどんどん難しくなっている反面、その重要性は年々高まっています。「Fidelity」による2016年の調査では、ミレニアル世代の実に58%が、金銭的な評価より仕事のやりがいを求めているという結果が出ています。
また、スタンフォード大学のJames Baron教授とMichael Hannan教授は、8年かけ最も効果的なマネージメント法について、200以上のベンチャー企業のデータから研究を行いました。そこで企業ごとのマネージメント方法を、5つのモデルに分類。
それは、エンジニアリング型、スター型、コミットメント型、官僚型、そして独裁型です。
中でもコミットメント型の企業は、従業員と感情的なつながりを持ち、家族のような絆を作るタイプの企業です。このタイプは、個人の能力よりもカルチャーフィットするかどうかを優先し、協力して仕事を進めることを重視します。そして、他の企業よりも成功しやすい、とのこと。この研究で扱った企業では、コミットメント型でビジネス的に失敗しているところはなかった、というのです。
人は特にビジネスの場で「人間らしく」扱われることを求めています。企業の歯車ではなく、ひとりの個人として扱われると、より仕事へのやる気が出るものです。
「よくやった!」が
やる気を作る
コミットメント型の企業を作る方法はいくつもありますが、最もシンプルで効果的なのは、「激励」です。どのコミットメント型の企業も、核にあったのは「激励」でした。
たとえば、行動経済学者のDan Ariely「Intel」で行った実験から、意外な事実が判明。それは、上司からの「よくやったね」のひとことのほうが、金銭的なボーナスよりも34.7%ほど生産性を高めたということです。
なぜか。
金銭的な報酬は確かにモチベーションを高めますが、同時に「仕事をしたんだからこれくらいもらって当然」という意識も生みます。
対して、激励されたり褒められると、シンプルにうれしくなります。「褒められる」ことは、人間にとって最もプラスの感情を生むのです。
「褒める」「感謝する」ことは、偶然起きることではありません。コミットメント型の企業では、これを意識して行っているのです。こうした企業では、社員をよく観察して、褒めるべきポイントを探しています。
「Starbound Marketing」のCEOであるKatie Melissaは、こう述べます。
「褒めること、そして感謝することは、どんな状況でも批判より効果的なものです。人々は常に、自分が評価されていて重要な存在であると感じたいのです」
人は誰でも感謝され、認められたいと思っているもの。欠点を指摘されるよりも、良かったところを褒められるほうが、人は伸びるものなのです。
また「Digital Media」のJeremy Millerによると、何かが成功したあとに1時間褒められるよりも、大変なときに掛けられる「がんばってね」のひとことのほうが効果があるそうです。
適度に「放っておく」ことで
社員が育つ
もうひとつのポイントは「自律」です。
モチベーションの研究で知られるDaniel Pinkは、近年の行動科学の研究から、自律的なモチベーションはより高い理解力や生産性、粘り強さを生み、良い精神状態を保つことができる、と「TED Talk」で語っています。
「自律」とは、つまり自由にさせること。
ブランド戦略の専門家であるLeonard Kimも、自由にさせることの重要性を説いています。始めはしっかりと手綱を握っていていも、チームが出来上がってきたら、あとは任せてしまうのです。未熟なチームなら多くの指導が必要ですが、慣れてきたらあれこれ口出ししないようにしましょう。
つまり、リーダーシップを取るためには、リーダーシップを「取らない」ことが重要になってくるのです。
手近なところでいうと、ミーティングの時間や頻度を少なくする方法があります。不要なミーティングにより、25~50%の時間が無駄になるという試算もあるほどです。あまり細かいところまでとやかく言われると、モチベーションも落ちてしまいます。
リーダーになると、責任を感じてしまい、失敗を恐れるようになってしまう人もいます。「Pixar」の創業者でありCEOのEd Catmullも、こうした問題について語っています。
「失敗は、学習と開拓のためのステップだ。失敗を経験していなければ、失敗を防ぐことに突き動かされてしまうという、もっとひどい過ちを犯すことになる。とくにリーダーは、これに従うと失敗の憂き目に遭うことになる」
しかし、失敗していないということは、挑戦もしていないということ。それは失敗するよりもはるかに悪い結果なのです。
部下たちの仕事の進捗が気になっても、ミーティングをすることだけが効果的な方法ではありません。部下を信じて任せたほうが結果は良くなるものです。
「アジャイルメソッド」が
自律的なチームを作る
最後のポイントは、「アジャイルメソッド」。耳慣れない言葉ですが、もともとはソフトウェア開発で使われる用語です。Charles Duhiggの著書『Smarter Faster Better』では、これは小さなチームで協力し、短いスパンでの試験運用や開発を繰り返し行う手法と説明されています。
このアジャイルメソッドでは、コミットメントが重要になります。チームメイトを信頼し、助け合いながら仕事を進めます。そして、ポジションに関わりなく、問題に直面した人が他の人に指示を出すのです。
この仕組みを採用することにより、自律的なチームができあがります。
オフィス以外の場所で働く人の数が増えている今、チームの身軽さはさらに重要性を増しています。25,234人のオフィスワーカーを対象にして行われたPolycomの調査によれば、世界のオフィス外で働く人口は2012年と比べて343%増加しています。上司と部下がはっきりしているピラミッド型の組織構造では、生産性が挙げられません。
アジャイルメソッドでは、プロジェクトが完成していなくとも、定期的に試運転を行うので、問題が発見されやすく、「問題を発見した人が指示を出す」という形になりやすくなります。
そもそも信頼して仕事を任せられない人には仕事をさせるべきではありません。会社に採用されて自分のチームにいるのですから、多少頼りないと感じても、仕事を任せてみましょう。
「もし従業員を信頼し、好きな場所で働き、好きな問題を解決することを許さないのなら、最初から雇わないほうがマシだろう」
リーダーシップを取るのは、確かに簡単なことではありません。ときには「銃やお金で人を従わせられたらどんなに楽か…」と思うことすらあるかもしれません。
しかし、人を動かす唯一かつ最も有効な方法は、自分から「やりたい」と思わせること。そのためには部下をパーツとして扱うのではなく、きちんと「人間」として扱うことが必要です。それは、励まし、褒め、自由にさせること。
リーダーシップをとる方法はそれしかないのです。