ネイティブアメリカンの聖なる儀式 「スウェットロッジ」で生まれ変わってきた。

カリフォルニア随一のパワースポットとして、世界中からヒッピーやナチュラリストたちが瞑想やトレッキングに訪れる聖山「マウントシャスタ」をご存知だろうか?

その裾野には、いまもなおネイティブアメリカンが精神と魂を浄化するための伝統儀式、その名も「スウェットロッジ」が受け継がれている。

一般の旅行者でも体験できると聞き、サンフランシスコ空港を降り立った私は、キャンピングカーに乗り込み、一路、カリフォルニアらしいビーチリゾートではなく、深い緑に包まれたスピリチュアルエリアへとひた走った。

Mother earthの子宮に戻り
エゴと感情を爆発させた先に…

サンフランシスコ空港から、車で約4時間半。辿りついた儀式の場所はマウントシャスタの麓の小さな町「シャスタ」にある「GATEHOUSE・RETREAT」。

ネイティブアメリカンの伝統的なライフスタイルを守り続けるセラピストのマイカが笑顔で迎えてくれた。

ネイティブアメリカンのラコタ族に古くから伝わる儀式「スウェットロッジ」は、ラコタ語で「イニーピー」、子宮への回帰を意味する。

写真に写っている小屋は、儀式の舞台となるMother earth(母なる地球)の子宮。なかに入って儀式を受けることで、再びこの世に産まれ落ちることができるのだ。

スウェットロッジに入る前には、聖水と煙でひとりずつ身を清めてもらう。

写真撮影はおろか、私語もNGと知り、慌ててロッジの中を撮影。小さく見えた小屋も大人が最大で18名も座れる。

いよいよ儀式が始まり、ロッジの扉は閉ざされ、辺りは暗闇に包まれた。

ロッジ中央のストーブでは、マウントシャスタの石がアツアツに焼かれていて、セラピストのマイカが石の上から聖水を振りかけると蒸気がモワモワとロッジに立ち込めてゆく。ロッジの中には私を含め日本人が6人。スピリチュアルパワーに敏感な者、私のように「ホットヨガみたいな感じかな?」などと考えている鈍感な人間が、一堂に円になった。

あ、暑い…。

あまりの温度と密閉感に全身の毛穴がじわじわと広がってゆく。儀式の名が、汗(スウェット)の小屋(ロッジ)であることの意味を身体で理解した。

マイカ「スウェットロッジのインサイドには、それぞれ土、火、水、空気のスピリット(精霊)が宿っています。東、南、西、北の順で各方向にギフトを求めて祈りを捧げましょう」

事前にレクチャーを受けていた通り、マイカはスピリット(精霊)を呼ぶ歌を歌いながら、ロッジの四隅に願いを込めて体を大きく揺らし始めた。

マイカ
「スピリット(精霊)の力を借り、ネイティブアメリカンにとって大いなる存在『ワカンタカンタカシラ』とのつながりを感じることで、自分自身が本当はどういう人間になりたいのかを見つめ直しましょう」

そして、次の瞬間、マイカは高らかに叫んだ。

マイカ「アホー!」 

これは、神様に「来てよ!」「私の声を聞いてよ!」と呼びかけるときの合図、言霊だという。戸惑いながらもマイカの祈りに共鳴するように、参加者全員ロッジの天井に向かって声を挙げた。

全員「アホー!」

スティックを持って一人ずつ時計回りに祈りを捧げる1ラウンド目が終わったら、一旦ロッジから出て数分間のクールダウンタイム。ロッジの外に準備された水風呂に飛び込む者の姿も。

2ラウンド目はいよいよスティックをバトンしながらひとりずつ、自分自身の正直な気持ちを告白していく時間だ。

マイカ「Focus yourself(フォーカス ユアセルフ)」

これが、マイカが私たちにくれたテーマだった。スティックを受け取った者は、己の内面深くに潜り、いま胸の中を支配しているエゴや感情をスピリット(精霊)の前で吐き出すのだ。

マイカ「Like a Baby(ライク ア ベイビー)。赤ちゃんのように感情を解放することで、いまアナタの心を縛っている闇を取り去り、本来のなりたい自分、新しい自分に近づけるのです」

マイカの声はスピリット(精霊)たちに認識されているから、彼女のそばで気持ちを吐露すれば、スピリット(精霊)が、本当になりたい自分になる手助けをしてくれるのだそう。

汗と涙が流れ出て…
体と心のデトックス

半信半疑、どこか遠巻きに見ていた私にスイッチが入ったのは、サンフランシスコ空港からスウェットロッジまで短いながらもキャンピングカーで旅を共にしていた仲間の数名が、涙を流しながら、とても初対面の人間には話せないような、人生における後悔と謝罪を口にし始めた瞬間だ。

彼女たちは泣きながら続けた。「今日、この場に来れたこと、スウェットロッジに導かれた運命に深く感謝します」と。

当たり障りのない告白でお茶を濁そうと思っていた私は、戸惑い、自分の浅はかさに気づき、そして何より仲間たちの涙にえらく動揺した。そしてついに私にマイカのスティクが…。

気がつけば、仕事柄、常に何かを俯瞰して見てしまう癖、心から何かに感動してのめり込めない後悔を吐露していた。恥ずかしさもあり、「今こうして海外を旅をしながら文章を書き、誌面を編む仕事ができていることへの感謝の言葉」も慌てて付け加えたが、やはりそれも本心だった。家族や同僚、いろいろな人に日頃のお礼を言いたくなる、不思議な不思議なスウェットロッジ。

スピリット(精霊)の力を借りられるというのならば、本当はどんな自分になりたいのか、今なら言える気もした。「目の前の仕事に忙殺されるばかりで本当にやりたい仕事から逃げているのではないか」。滝のように全身から汗を流しながら、そんなこともつぶやいていた。

「今、その場に浮かんだ歌を歌ってみて」。そんなマイカの問いかけに、ある年上の仲間は90年代にヒットした懐かしの名曲「世界中の誰よりきっと」(WANDS&中山美穂)を口ずさみ始めた。私の頭にはなぜか光GENJIの「ガラスの十代」が突如浮かび、さすがに歌うことは憚られたのだが、この曲に何か意味があったのだろうか…。

3ラウンド目が終わり、スウェットロッジを出た参加者たちは、汗と心の澱を流し切り、スウェットロッジ前に置かれた椅子に座って空を見上げていた。心が身体から逃げ出したような、しばしの放心…。

何だか、すごく心地いい。こんなに爽快な気分は本当に久しぶりだった。

マイカが広場で何者にも隠れず排泄している姿が視界に入り驚いたが、汗と涙を流しきったあとなら、それすら自然な生理現象のように思えた。

こうして、ネイティブアメリカンに古くから伝わる「スウェットロッジ」の儀式を終えた私たち。身体の芯からポッポする。生まれ変わったのかもしれない、そう思うととてもワクワクした。有りていに言うなら心のデトックス感がハンパない。

効果を特に実感したのは、帰国からしばらく経ってからだ。あのとき、みんなの前でつぶやいた懺悔や理想をよく思い出すし、なんとなく近いうちに自分はそれを叶える気がしている。だってわざわざ海を渡り、カリフォルニアの聖山の森の中に佇むスウェットロッジにまで行って告白した。

おそらくそのことに大きな意味があるのだ。きっと、言葉にスピリットが宿ったのだ。

取材協力:
シャスタカスケード観光局
The Mount Shasta Gatehouse Retreat
カリフォルニア観光局
 
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Photo by Riyua Joe
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