ジョブズは「批判」にどう対処していたか?
私たちは、時々心無い言葉を受けることがあります。顔の見えないSNSでの投稿などは特に、好き放題書く人が多い。もちろん、批判的な意見だからといって、全部無視するべきだとは思っていません。けれどそれが意見や感想ではなく、誹謗中傷であった場合、どう対応するのが正解なのでしょう?
スティーブ・ジョブズがAppleに復帰を果たした翌年の1997年、Worldwide Developers Conferenceの場において、開発者らの質問に答えていた時のこと。観衆の一人が立ち上がり、こんな発言をしました。
「残念ですが、あなたは復帰した自分が、この場で何を求められているかが理解できていないようですね。過去7年間を通して何を行ってきたのか、アプリケーションに精通するもっと具体的なことを示してくださいよ。それを伝えられないのなら、いったい何をしてきたっていうのですか?」
公の場での挑発的な発言は、その場にいた人たちを困惑させ、ジョブズに対する有名な侮辱のセリフとなりました。しかし、ジョブズはこの状況ですべきことを完璧に実行していたように思えるのです。
彼の対応を、いくつかご紹介しましょう。
01:
間を取って考える
ジョブズが最初に行ったことは、恐らく最も難しいことだと思います。彼は間を取り、一言も発せず座り続けたのです。観衆にとっては永遠とも思える沈黙の中で、水を飲み、批判と質問の両方を約10秒間熟考しました。
そして、こう語り始めました。
「えー、あなたはある時に、ある人々を喜ばせることはできるけれど…」そこで止まり、また8秒間の沈黙。
間を取ることは非常に重要です。これによって、自分の感情をコントロールして、後悔する言動を取る前に、物事をじっくりと考え抜くことができるのだから。彼は心を落ち着かせて、ベストな答えを返すのに必要な時間を自分でつくったのです。
02:
相手の意見に同意する
「何かの流れを変えたいと思った時、この男性のように声を上げることは最も困難なことの1つであり、正しい方法です」 と、ジョブズは説明しました。
人の批判的な心を変えるためのベストな方法は、彼らを攻撃することではなく、共通の意見を見つけることだと、心理学者や他の研究者は長年論じ続けてきました。
<この男性の意見は正しい> と認めることで、ジョブズはこれを完璧に実践してみたのです。手厳しく言われた通り、詳しく説明できないことがあったのも事実。発言者が求めたのは、あらゆるアプリの全ての機能に精通すること。その知識を完璧に網羅していることが、CEOの仕事ではないのですから。
03:
自分の立場を理解してもらう
ジョブズは、Appleでの役目をこう説明しています。
「私の仕事は、あらゆるソフトウェアの一部始終を把握することではありません。むしろ全体像を見ることや、ビジョンを何度も思い描くこと、あらゆる人々を正しい軌道に乗せることです。
最も重要なのは、80億ドルや100億ドルの年間売り上げを可能にする、より大きなビジョンをどう実現するかにあります。そのために私が徹底しているのは、最初にユーザーの目線で利用してから、開発に戻らなくてはいけないという点。ユーザーにとって使いやすいかどうかの議論を置いて、販売場所の特定や技術向上から仕事をしてはいけません」
"ユーザー体験から始める"という極めて特殊な考えは、当時の人々からすれば説得力に欠けるものだったでしょう。しかし彼の考えは正しかったと、歴史が証明しています。
04:
失敗談から「共感」をつくる
ユーザー体験に関連して、ジョブズはこう続けました。
「 恐らくこの部屋にいる誰よりも、私は顧客目線を忘れるという間違えを犯してきました。深い傷を負ったからこそ、今の答えは正しく、成功することを確信しています」
自らのビジョンを説明するだけではなく、自身の教訓をオープンにすることで、信頼の獲得を容易にしました。要するに、彼自身の体験を生かすように、関係者 (や株主) に"お願い"をしたのです。
05:
仲間を褒める
「現在のAppleには、懸命に働く多くの人々がいます」と、ジョブズは力強い声で断言しました。そしていくつかの例を挙げてから、文字通り数百人から成るチーム全体を称賛したのです。
「彼らは全力を尽くしています」
この言葉によって、チームの背中を押しました。功績を認めて、褒め讃えたのです。ジョブズを応援したいという気持ちを、チームだけでなく、観衆の人々にも芽生えさせたのです。
06:
力強い言葉で締めくくる
最後の言葉は、人々を奮い立たせるような力強いものでした。
「これからも進んでいく道の途中で、いくつかの間違いはきっと起こるでしょう。しかし、それは良いことです。なぜなら、より良い未来への決断が成されるということだから。私たちは間違えを見つけては、それを正していくのです」
ジョブズはこう述べ、観衆からの拍手を受けました。そして、彼は最初の侮辱の言葉にこう答えてみせたのです。
「あなたが言うように、私は完璧ではありません。みなさんの中には話を聞いて納得していない人もいるでしょうが、ひと昔前の現状よりはるかにマシなことです。私たちはきっと、ビジョンを実現します」
この記事は、作家・企業コンサルタントとして活動するJustin Bariso氏による「Inc.com」への投稿を翻訳して紹介したものです。
Justin氏は、2016年「LinkedIn」のManagement and Culture.部門にて<Top Voice>として注目されています。2017年春にはエモーショナルインテリジェンスに関する興味深い調査や最新事例、個人のストーリーなどをまとめた新刊『EQ,Applied』を発売する予定です。