薬局に「薬を返しに来た」おじいさん

ある薬局で起きた実話を紹介します。

その店には、いつも仲睦まじく寄り添い合いながら薬を買いに来る老夫婦がいました。ところが、ある日おじいさんだけが店に。

その日のことをJames MoralesさんがTwitterに投稿しています。


 

これを見ているほとんどの人は気にも留めない出来事かもしれないけれど、僕の中では大きな出来事だったから、ここに書いていこうと思う。

 

薬局で薬剤師として働いている。よく来る老夫婦がいる。彼らは週に2回、多いときは3回薬局を訪れる。ふたりのことを知らないスタッフはいなかった。

 

僕は特におばあさんと仲が良かった。何年もこの薬局に通っていた常連客だから、先輩たちは随分前からふたりとも顔なじみだった。新人だった僕の成長を見守ってくれていた夫婦でもある。

 

いつも幸せそうにしていて、その会話の様子から仲の良さが伝わってきた。おじいさんはいつもおばあさんの言葉や仕草に細心の注意を払っていて、彼がどんなに彼女を大切にしているのか、よくわかった。

 

ふたり一緒じゃない日は今まで一度もなかった。だから、おじいさんがひとりでカウンターにやってきたとき、とても不思議に思った。

 

「スミスさん、今日の調子はどうですか?」

「そこそこ良いよ」

 

いつも通りの返答だったから、それ以上深くは考えなかった。いつものように6つの薬を準備したんだ。3つは彼に、あとの3つはおばあさんに。

 

おじいさんは、しばらく静かにそこに立っていたんだけど、こう話し始めた。

 

「私の妻は、昨日亡くなった。だから今日はこの前もらった薬を、返しにきたんだ。使うことができないからね」

 

僕らの薬局はいつも忙しくて、騒がしい。でも、おじいさんがそう言った瞬間、店内は静まり返った。みんな会話に耳を傾けていた。スミスさんはぼくの方をみながら、目に涙を浮かべていた。

 

「こんなことを言うのは良くないのだろうけれど、できることなら、私は彼女より先に逝きたかった。今日は、いつもより広いベッドが落ち着かなくて目が覚めたよ。彼女は、私にとって大切な親友で、恋人だったんだ」

 

僕は必死に涙を堪えて彼の話を聞いた。僕の後ろにいた何人かの同僚は、堪えきれずに泣いていた。

 

「けれど、悲しんでばかりいてはいけない。私は彼女に生きることを約束したんだ。私は真剣に生きていくよ。そのためには、薬を飲まなくてはね」

 

スミスさんは、店を出る前にこんなアドバイスをくれた。

 

「愛している人には、愛しているときちんと伝えるんだよ。いつ会えなくなるかわからないからね」

 

彼は奥さんが亡くなる前に「愛してる」と言えなかったことを後悔していた。その日の夜も、いつものように「おやすみ」と言った。それが最期の会話だったらしい。

 

チャンスがなくなる前に、どうかあなたの大切な人に、愛していると伝えて。

Licensed material used with permission by James Morales
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