ごはんを食べるように「漢方」を飲む。世間のイメージとは違う効果や使い方を教えます——鎌倉の薬局三代目・杉本格朗

マズい、効かない、古臭い。

そんな漢方を取り巻くマイナスイメージを払拭するべく活動中の、神奈川県鎌倉市大船にある漢方薬局「杉本薬局」の三代目、杉本格朗さん。

彼のやり方は人とは少し違っている。日々、薬局で相談を受けながら、音楽や映画のイベントとのコラボレーションなどを通して、世代を越え、漢方を広めているのだ。

じつは、漢方のポテンシャルはとても高い。現代を生きる私たちが必要とする場面や助けになることってたくさんあるのに、難しい話になったら誰にも伝わらない。今までの漢方がそうであったように。だから、世代を越えるような柔軟な共通言語を持った専門家が必要だと思った。

そして、話を聞くならこの人だ、そう思ったのだ。

困った人が漢方に辿りつける
ような入り口を作りたかった

©2019 ETSU MORIYAMA

——正直、漢方はちょっと古臭いイメージがあります。21世紀に漢方薬局の跡を継ぐのは大変なことでは?

 

「そうですよね(笑)。うちは祖父の代からですが、僕は大学は芸術学部へ進学して、染色や現代美術を学んでアートの道へ進もうと思っていましたが、父が体調を崩したのをきっかけに26歳の時に薬局に入りました。

ただ、子どもの頃から漢方薬を飲んでいたのに、知識はまったくゼロ。店に入った最初の頃は、何もできなかったです……。当たり前ですよね。それで父や祖父の知り合いの漢方の先生のところで学ばせてもらいました。親子だとケンカになったりしますので(笑)」

 

——今では漢方薬局の枠を飛び出して、音楽や映画のイベントとコラボレーションなどもしていますね。

 

「おじいちゃん、おばあちゃんものというイメージの濃い漢方を、もっと若い世代にも知ってもらう良い方法はないかと考えていました。医薬品は薬局・薬店でしか販売できないけど、和漢植物を使った食品ならイベントでいろいろな方に触れてもらえると思いました。

日常に美味しくて体にいいものを取り入れていただくのがスタート。食品は極端に体に作用するものではないけど、漢方に触れるきっかけになります。商品化する際には、どのようなレシピがいいのか頭を悩ませ、夜な夜な配合を0.1グラムずつ変えて試飲を繰り返していました。イベントを通して漢方のことを知った人が、困った時に薬局に来れるようになったらいいなと想像しながらでしたね」

©2019 ETSU MORIYAMA

漢方の間口を広げるべく杉本さんが開発した商品。一番人気の「薬膳十一包」は、サムゲタンもいいけどいつものお鍋に入れても美味しい薬膳鍋が出来上がる。他に、和漢のチャイやミントティーなども。

 

——そのように漢方の間口を広げる活動に、アートの世界に身を置いてきたご自身のバックグラウンドが活きているなと思ったことは?

 

なんとなく“ものづくりの人たち”との共通言語があるというか、話が進みやすいというのはあるかもしれません。イベント主催者の思いのようなものを汲み取ってイメージを共有し、アイデアを出し合い、形にしていくことが身についたと思います。加えて、"おもしろそう"と思ったらやってみる姿勢も培われました」

 

——それにしてもアートや音楽などと、漢方。結構離れている業界の人たちがよく結びついたなあと思っていましたが……。

 

「ジャンルは関係なく、出かける先や、友人の紹介でいろいろな人たちと知り合えたことが、一番大きいと思います。

ライターさんもフォトグラファーさんも、皆さんきっとそういう経験があると思います。記事書くの手伝ってもらえる? とか、写真撮ってほしい! っていう時あるじゃないですか。お願いしたいなって思う人が周りに居たら。僕がなんかいい漢方ある? とか、漢方で何かイベントできる? って言われるのは、それと一緒なんだと思います。だから、今いろんなところに呼んでもらえたり、お話をいただいているのは、僕一人では到底できないことばかりです」

「漢方は効かない」という
イメージはどこからくるのか?

©2019 ETSU MORIYAMA

——杉本さんの活動を拝見したり、お話を伺っていると、漢方に興味が湧いてくるものの、やっぱり西洋医学の薬(新薬)に比べて「漢方は効かない」というイメージがあるんです。

 

「それは選んだ漢方が自分に合っていない可能性があります。漢方薬を病名だけで選んだり、『友達がいいと言っていたから』と選んだりすると合わないことが多い。今はネットの自己診断サイトなどを使えば比較的合う漢方薬を選べるようになってきてますが、漢方薬局で対面式に相談することで、細かなニュアンスや自分では気づかない体の状態を把握できます。

また、治療には漢方薬を服用するだけではなく、服用する時のコツ、養生の仕方なども大事になってきます。食事、睡眠時間、入浴、感情など、ライフスタイル全体を考える必要があります。

漢方薬には今困っている症状を抑える「標治(ひょうち)」と、悩みの根本を整えていく「本治(ほんち)」があって、不調によって使い分けができます。漢方は長く飲まないといけないものだけでなく、即効性があるものもあるということです」

 

——体質改善や、ダイエットと同じ部分がありますね。

 

「そうですね。長く悩んでいる症状ほど、改善する時間もかかることが多いです。ちなみに杉本薬局では、慢性の不調でもまず2週間分を飲んでもらうことが多いです。理論だけでなく、体がどんな反応をするか確認しながら進めていきます。ぴったり合うものだと、飲んだその日から楽になる人もいますよ。

効かないと思っても、もしかしたら漢方薬のおかげでそれ以上悪化しないのかもしれない。そういうことを見極めながら、一緒に治療を進めていきますので、思ったことや気になることは何でも言ってください。一概には言えませんが、かえって具合が悪くなるということがなければ、見直すタイミングは3、4ヶ月が一つの目安だと思います」

 

——最終的に、どのくらい飲み続けていけばいいのでしょう?

 

「漢方薬を飲んで体に必要なものが入ると元気になりますが、ある程度飲み続けるとそこがスタンダードに感じるようになります。適度なところまで整ったらあとは維持していけばいいんです。筋トレに近いですかね」

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。