この薬膳鍋の素やチャイは「名刺代わり」です。美味しいと思うことは、漢方の入り口。【商品開発秘話】——鎌倉の薬局三代目・杉本格朗

漢方が、おじいちゃん、おばあちゃんのものというイメージを強く持っているのは、若い世代こそ多いかもしれない。

そんな漢方の世界と、何となくそこに入りづらさを感じている人たちを、どうやったら繋ぐことができるか? 「和漢植物を使った食品」なら、自身が漢方を広めるために参加しているイベントなどでも、いろいろな人たちに触れてもらえるかも? なんてことを考え、パッケージデザインも含めて広い世代が手に取りやすい「お茶」や「調味料」を作り、世に送り出したのは、神奈川県鎌倉市大船にある漢方薬局「杉本薬局」の三代目、杉本格朗さんだ。

ここ最近、従来よりも広い世代が手に取りやすい「漢方関連商品」が増えてきているように思う。杉本さんの作ったお茶や調味料もそのひとつだが、一番注目すべきポイントは「美味しい」ということ。この「美味しい」には、大事な意味が込められている。

一番人気は薬膳鍋の素
「薬膳十一包」です

まずは商品ラインナップからご紹介したい。

©2019 ETSU MORIYAMA

「和漢のチャイ」(上写真・左)

ルイボスティーをベースに朝鮮人参やナツメ、ショウガ、シナモンなどをブレンドしたノンカフェインのチャイ。カラダを温めたい、休息したい、英気を養いたい時におすすめ。 ナツメのほのかな甘さと、ほどよいスパイスの味わい。お好みでミルクや砂糖を入れても美味しい。

【原材料名】ルイボスティー、ナツメ、朝鮮人参、シナモン、ショウガ、カルダモン、チョウジ、コショウ 



「和漢のミントティー」(上写真・右)

凍頂烏龍茶をベースにハッカや朝鮮人参、ビワの葉、ナツメなどをブレンドしたお茶。凍頂烏龍茶の甘みとコクに、ハッカのさわやかさが加わった上品な味わい。 頭やのどをスッキリさせたい時におすすめ。お好みで砂糖を入れても美味しい。

【原材料名】凍頂烏龍茶、ビワの葉、ハッカ、ナツメ、朝鮮人参、ドクダミ 

©2019 ETSU MORIYAMA

「薬膳十一包」(上写真・左)

11種類の和漢植物をブレンドした薬膳スープパック。 クセが少なく、家庭で簡単に薬膳料理を楽しめる。 鍋やスープ、煮込み料理などに、出汁や好きな具材と一緒に煮込んで使用。

【原材料名】ショウガ、ハトムギ、朝鮮人参、ウコン、チンピ、ナツメ、シナモン、山椒、八角、クローブ、クコの実 



「和漢の塩」(上写真・右)

山椒、シソ、ごま、ミカンの皮、ショウガをブレンドした和漢の塩。 スープや揚げ物、サラダなどにふりかけても美味しく、さわやかな和漢植物の香りが広がる。 薬膳十一包との組み合わせも相性抜群。

【原材料名】食塩、山椒、シソ、金ごま、ウンシュウミカンの果皮、ショウガ

©2019 ETSU MORIYAMA

そもそも「商品開発」の始まりは、漢方の新しい楽しみ方を提案するブランド「かまくら 晴々堂」さんから依頼があって、そちらの商品を作ったこと。そのあとで、杉本薬局のオリジナルも作ってみようということになったのだ。数ある中から、お茶の種類を「チャイ」と「ミントティー」に選んた理由が気になるところ。

 

「チャイは、もともと中身が漢方薬と似ているので、これだったら朝鮮人参やナツメを足してもおかしな味にはならないんじゃないかと思ったんです。実際に、チャイは広く知られているお茶だということもあって、漢方のお茶ですよ、和漢のお茶ですよと言われて新しいものを飲むよりも、受け入れやすいと言われます。

ミントティーに関してもそれは同じことが言えるけど、以前モロッコを旅行した時に、めちゃくちゃ美味しいミントティーを飲んだことがあって、同じようなものを作りたいなと思っていました。でも、モロッコでは、生のミントが安く手に入るけど、日本では高くて手に入れにくい。日本じゃ同じようにはできないないから、漢方にある乾燥したハッカで作れないかと思い、凍頂烏龍茶と合わせてみたらとてもいい感じになったんです。

でもそれだけでは漢方薬局であるうちで作る意味がないから、喉に良いビワの葉を入れたり、どくだみや朝鮮人参を入れたりしてアレンジしました。モロッコではミントティーに砂糖を結構入れるんですが、その代わりにこちらはナツメを入れて、少し甘みのあるお茶に仕上げています」

 

「薬膳十一包」という薬膳鍋の素の誕生秘話は、ちょっと面白い。

 

「スープにしようと思って薬膳のブレンドを作っていた時に、試しに作ったものを友人のイラストレーターの横山寛多君に『これで鍋やってみて!』と言って渡したんです。そしたら、めちゃくちゃ美味しいって言ってくれて、お歳暮にしたいというので20〜30個作ったことがきっかけになり、商品化しました」

 

横山さんがいいと言ってくれたことがきっかけになったのと、以前から何か一緒にやりたいなと思っていたこともあり、商品のパッケージは彼にお願いすることに。現在の一番人気は、この薬膳十一包。サムゲタンなどを作っても美味しいが、癖も強くないので、いつもの鍋などに入れてもこれがまた美味しく仕上がる。

ちなみにお茶と和漢の塩のパッケージのイラストを手がけたのは、杉本薬局近所の酒屋の娘さん。小中学校の同級生で、油絵をやっていたのを知っていたので、書いてもらおうということになったそうだ。

朝鮮人参が好きです
元気になるから

©2019 ETSU MORIYAMA

商品を作る時、いろんな和漢植物や生薬などを試すと思うのだが、ちなみに杉本さんが一番好きなものは何なのかを聞いてみると、“朝鮮人参”という答えが返ってきた(確かに、手がけた4商品のうち、3つが朝鮮人参入りだ……!)。

 

「一番と言われると難しいけど、朝鮮人参は気を補って元気になるものだから好きですね。あと牛黄(牛の胆石)も好きです。疲れている時は元気になるし、落ち着かせる効果もあります。

©2019 ETSU MORIYAMA

「ちなみにこれは、虫の養分をもとに成長する冬虫夏草。セミタケと言って、セミの幼虫からキノコが生えてるんです。滋養強壮にいい。冬虫夏草って冬は虫だったのに、夏は草になってるって意味だから、広い意味で使われているんですが、本当はコウモリガという蛾の幼虫から生えてるものがベストと言われています」

©2019 ETSU MORIYAMA

「これはタツノオトシゴ。漢方では海馬と言って、腎に良く、年齢とともに衰えたものに効きます」

 

においを嗅がせてもらうと、香ばしくておつまみみたいな香り。砕いて漢方薬に使う他にも、そのままお酒に漬けて飲むツウもいるのだとか。漢方、奥が深い……。

料理はほとんどしません
“混ぜる”のが好きなんです

©2019 ETSU MORIYAMA

商品化する際には、どのようなレシピがいいのか頭を悩ませ、夜な夜な配合を0.1グラムずつ変えて試飲を繰り返すなどしていたという杉本さん。これを美味しいと思ってもらうことが、漢方の入り口になる。そう思いながら試行錯誤の末にできた商品は、どれも想像より癖がなく、イメージを覆す美味しさだ。

ちなみに以前、杉本さんが登壇しているイベントで飲んだ特製の薬膳酒もとても美味しかった。だからきっと彼は「グルメな舌」を持つ料理上手なのだろう、そう思って話を聞くと、ちょっと違う返答が返ってきた。

 

「もともと食べ歩いたり飲んだりするのは好き。でも、普段から自分で料理をすることは少ないです。ただ、“混ぜる”のが好きなんです」

 

杉本さんは、もともと学生時代に染色や現代美術を学んでアートの道へ進むことを考えていた人。なるほど商品開発には、染物の染料を“混ぜる”感覚もあったという。

 

「染物だけでなく、お香を作ったりもしていましたが、もうちょっと赤を入れたほうが好きな色になるなとか、においを嗅いでみて、もうちょっと白檀を入れてみよう、もうちょっとスッキリさせようなどと考えながら、調合するのが好きなんです。お茶も、味見してみて、もうちょっと甘みをとか、辛味をとか、さじ加減で自分のイメージのところに近づけていきます。どうブレンドしたら、体に良くて、美味しく飲めるお茶になるか考えています」

 

“混ぜるのが好き”、この感覚は、「人」を混ぜることもある。あの人とこの人は合いそうだなという人たちを会わせたり、自身においても、フォトグラファーの友人・菊池良助氏と企画して、杉本さんが生薬で染めた紙に彼の作品を印刷してみたり、シルクスクリーンのアーティスト・カザマナオミ氏とインクに生薬を混ぜて作品を作ってもらったり。2017年には、この二人とともにフランスと東京で展示会も開催している。

違う世界にいる人と自分が、どのように関われるか(混ぜ合わせられるか)ということを常に考えているのだとか。

彼が作ったお茶や調味料などの商品は、このように“混ぜる”ことで作られた。そして今まで出会わなかった漢方と人を“混ぜる”きっかけにもなっている。

 

「商品は、漢方を知ってもらうための最初の挨拶というか、名刺代わりなんです。まずはこのお茶や薬膳鍋をみんなで楽しく美味しく飲んだり食べたりしてもらいたい。そしてこの商品を入り口として、漢方に興味を持ってもらいたいと思っています」

 

紹介した商品は、杉本薬局の店頭や、公式通販サイトからも購入できます。

杉本薬局

住所:神奈川県鎌倉市大船1-25-37
TEL:0467-46-2454
営業時間:10:00~18:30
定休日:木・日曜・祝日
公式SNS:Instagram(杉本薬局)、Instagram(杉本格朗)

Top image: © 2019 ETSU MORIYAMA
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